1
−−ねぇ、幸せだったんだね
「ちょっと」
呼ばれて振り返ればしかめっ面の少年。
いや、もう20歳じゃ少年じゃなくて青年か。
立派なシワが眉間に出来てるよ。
せっかくの男前が台なしだね。
「どうしたの?」
「ん」
彼が差し出したのは魚。おお、大物だ。
「お兄ちゃんがお兄さんにだって」
青年の後ろからひょっこりと顔を出した少女。
「素直じゃないね」
「うるさい」
「ははっ、まったくだね」
僕も少女と一緒に笑うと青年の眉間にさらにシワがよった。
「お兄ちゃん、シワシワ〜」
「あまりシワよせてると怖がって誰も近づかないよ」
「………」
そうやって黙っちゃうところ、そっくりだなぁ〜。あの人に。
「お兄さん、懐かしい?そんなにお兄ちゃんって似てるの?」
「もうそっくり!あ、でも彼のほうが少し若いよね。最後に会ったのは確か23歳あたりの時だからもう少し大人っぽかったね。でも似てる似てる」
「そうなんだ!いいなぁ〜、私も見てみたいよ」
「………ムリだ」
ぽつりと青年が呟いた。
それもそうだね。だって彼にはもう会えないんだからね。
[ 12/15 ][*prev] [next#]
[list]