06


「それだけじゃないぞ。アオギを拾ってきた責任が、お前にはある」

 突如部屋の外の廊下から聞こえた声に驚き、全員がそちらに顔を向ける。
「リザ!」
「やっと終わったよ、仕事。今日も依頼の選別が一苦労だ。断りの電話入れたら逆ギレされるし。ったく、こちとらそんな甘い依頼は受けてねーんだっての」
 帰宅早々、文句を垂れるリザはネクタイを緩めながら自分の席に座る。
「お疲れさまです。シュラもお疲れさま。今日もまた兄さんにこき使われたんです?」
 リザのあとに部屋に入ってきたのは、シュラと呼ばれたマスクをかけたタレ目の青年。「お疲れっす。今日は大学でやることあったんで組織には顔出してないです」
 カバンを部屋の隅に置き、シュラも自分の席に腰を下ろした。
 すると見慣れぬ人物と目が合い、固まってしまった。
「こら、アオギ。そうやって誰彼構わず能力を使うのはやめなさい」
 リザとシュラの分のご飯をよそってきたイヅチに注意され、アオギは大人しくなった。
「な、なんすかこれ……」
 唖然とするシュラにリザが肩を組んでゲラゲラと大笑いした。
「面白いだろ、シュラ。こいつは記憶喪失の異能持ちだ。いずれはEMPで働いてもらう」
「異能……じゃあ今のが……」
 そう呟くと、シュラは再びアオギを見る。
「ああ、あまり目は合わせない方がいいですよ。どうやら目を合わせると発動するみたいなので」
 アオギと目を合わさせないようにと、イヅチは慌ててアオギの目を両手で覆った。
「まあ能力といっても、たぶん今のは一部なんでしょうけど。何分、記憶喪失なものですから能力の詳細が不明なんですよ。あ、そうそう、この子の名前は私が勝手に命名させてもらいましたので。アオギ、と呼んでくださいね」
「ちょっ……イヅチさん……アオギ、これ……」
「ん?」
 レセが目を見開いてアオギを指差しているため、イヅチは訳が分からぬままアオギを見下ろした。
「な、なんてこと……」
 未だにイヅチが両手でアオギの目を覆っているにも関わらず、彼はまるで目の前のものが見えているかのように、肉をフォークで刺し、難なく口元へと運ぶ。そして白飯にも手を付け、次にパスタを絡め取り、それも無事に口へ入れた。
「見えて……いるのか、コイツ?」
 リザも吃驚し、その様子をじっと眺める。
「ふふっ、面白い! あとで試してみたいことがある。付き合え、イヅチ」
「はい」
 含み笑いをするリザに、イヅチが頷いたところで食事は再開された。

「それじゃ、始めようか」
「何をするつもりです? リザ」
 夕飯も終わり、アオギとイヅチを連れて空き部屋へ移動したリザ。その手には手ぬぐいが握られている。
「まあ見てなって。アオギ、ちょっとこれ巻くけど大人しくしてな」
 そう言うとニヤけながらアオギの後ろに回り込み、持っていた手ぬぐいでしっかりと両目を隠し、落ちないようにきつく結ぶ。
「ちょ、可哀想じゃないですかリザ!」
「いやいや、そんなことはないだろ。これは私達の為でもあるんだぞ? 無効化されるお前と違って私達はコイツの能力が効いちまうんだ。コイツと目が合わなければいいならコイツの目を隠せばいい」
「だからって……」
「お前も見ただろ、さっき。視界は塞がってたのに全く気にしていない、というよりちゃんと見えているようなあの動き。だったらアオギの目を隠しても問題ないと思ったんだよ」
 ピースをして満面の笑みを見せると、リザはイヅチを連れてアオギから10mほど距離をとった。
「ほらイヅチ、アイツを呼べ」
 顎でくいっとイヅチに合図をすると、リザは再びアオギに視線を移す。
「アオギ、こっちへ」
 イヅチはリザに言われるがままアオギに手招きする。
 するとアオギは立ち上がり、一直線にイヅチのほうへ走ってきた。
「やっぱり見えて――うわっ!?」
 アオギが来る直前、リザはイヅチの手を掴むと立ち上がらせ引っ張って走った。
「ちょ、どこ行くんですかリザ! アオギは目隠ししたままですよ!?」
「大丈夫だ、あれは絶対見えてる!」
 確信に満ちた目で大きく頷くリザは、そのまま2階へと階段を駆け上がる。
 アオギは後ろから追ってくる。
「ははっ! とんだホラーだな!」
「面白がってますね、リザ。もう……そろそろいいでしょう? 見えてることは証明できましたし、アオギが可哀想です」
 その言葉に少し考える仕草を見せると、リザはゆっくりと立ち止まった。
「そうだな、そろそろいいか」
 その直後、イヅチの足に強い衝撃が走った。
「アオギ!? もう追いついてきたんですか!?」
「足速すぎだろコイツ! 結構思いっきり走ったぞ、私ら! それになんの障害にも引っかからず来たか。やっぱり見えてるな」
 リザはアオギの頭を撫でると、決意したようにイヅチを見た。
「両目を包帯で隠せ。それに慣れさせろ」
「分かりました」
 こうしてその日からアオギの教育が始まった。

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