05
「今のがアオギの能力ということですね」
風呂から上がり、アオギの頭を拭きながらイヅチは一人で納得して頷く。
けれど当の本人は意味が分からず首を傾げた。
「能力のことも分からず、ですか。もしかすると、今のレセに対する能力も一部なのかもしれませんね。これは……早く能力の制御をできるようにさせなければ。でないといずれ無関係の人を殺してしまいますね」
そう決意し、先ほどキリカとセリカの部屋から拝借した衣類をアオギに着せる。
「まあ、少しぶかぶかしてますが問題はないでしょう」
再びイヅチはアオギの手を引き、居間へと移動した。
「やっと来た! 早く説明してよー! というかご飯早く食べようよ。おなか空いた!」
姿を見せた二人にレセはぶーぶーと文句を言い、相変わらずの騒々しさでその場を仕切る。
「あ、その服……」
「僕たちの……」
そこにはまた新たなEMPメンバーが加わっていた。
「すみません、勝手にお洋服を拝借しました。さすがに私のを着させるわけにはいかないので」
そう、そこにいたのはアオギの服の主で、先ほどの部屋を使っている人物。
「まあ、キリカもセリカも、もうコレは着けないでしょう?」
一卵性双生児であるキリカとセリカは頬を膨らませ、同じ方向にそっぽを向くという、双子のシンクロ率の高さを垣間見せた。
「アオギ、この男の子はキリカ、そして女の子はセリカですよ。EMPではアオギと一番年が近いですよ。彼等は小学生です。あ、彼女もまだ紹介してませんでしたね」
そう言って、イヅチはレセに顔を向ける。
「あ、私? 私はレセ。さっきはよくもやってくれたよね、あんた。蹴り飛ばしてあげたいんだけど」
眉間にシワを寄せてアオギを睨むように見るレセに、アオギは再び殺気を放ち始める。
すると、レセだけにとどまらずキリカとセリカまでもが固まってしまった。
「え? みんな、どうしたの。ご飯、食べようよ」
その状況についていけないシグラはおろおろしながらお箸を手に持った。
「アオギ」
イヅチの声を聞くと落ち着くのか、アオギは殺気を押し込め、3人を解放した。
「「何、今の。動けなかったんだけど」」
初めてアオギの能力にかかった双子は唖然としてアオギとイヅチを交互に見る。
2回目であるレセは、防ぐ術がないことに苛立って先にご飯を食べ始めてしまった。
「まずは夕飯をいただきましょう。食べながら説明しますね。ところでレセ、『いただきます』は言いましたか?」
「〜〜!! いただきます!」
悔しそうに唇を噛むと、レセはぶっきらぼうに挨拶をして再び食べ始めた。
それを見て微笑むと、イヅチは隣にアオギを座らせ、食事を前にして手を合わせる。
「いただきます」
「いあしゅ」
イヅチを真似して手を合わせるアオギ。
そんな彼を見て、レセは笑った。
「なーんだ! 可愛いとこあんじゃんコイツ!」
「それで、アオギの件ですが、この子は記憶喪失ですべてにおいて記憶がありません。言葉も、生活の中で使う動作も何もかも。赤ちゃん同然です。もしかしたら、記憶喪失ではなくもともと言葉も何も分からない状態だったかもしれませんが……」
イヅチはお茶碗を片手にアオギの説明を始めた。
「じゃあ一から教え込むってこと?」
「そうです。リザの許可ももらいましたので、今日からここで一緒に暮らします」
「リザさんが? ってことはそいつ、EMPに入るってこと!?」
驚いたレセは箸を置いて身を乗り出す。
「はい。組織に加わります。といってもすぐにではないですが。いろいろ教えないといけないですし、とりあえずは自分でやれることを増やさなければいけませんので仕事への参加はまだまだとみていいでしょう。能力もよく分かってませんしね」
「そう! 能力! さっきのってそいつの能力なんだよね? 一体なんなの。メデューサか何かなの?」
箸を取ると再びおかずに手を付けるレセに、シグラは小さく笑った。
「メデューサ。面白いこと、言うね、レセ」
「うっさい引きこもりシグラ。というかなんであんたはアオギの能力にかかってないの。納得いかないんだけど」
レセに負けて押し黙ってしまったシグラの代わりに、イヅチが答える。
「あくまでも推測の域ですが、アオギの能力は相手の目を見たら発動するんじゃないでしょうか」
「目?」
「そうです。シグラに効かなかったのは、シグラと目が合わせられないから。シグラは基本的に人の目を見ません。すると目が合うこともありません。それが原因か、あるいは目が前髪で隠れていてアオギがシグラの目を見れなかったことが原因と考えられます。あのリザでさえかかりそうになってましたからね」
イヅチの仮説に納得したように全員が同時に頷く。
するとレセが思い出したように声を張り上げた。
「でもでも! イヅチさんはアオギと目が合うよね! それなのに効いてないよ。どうして?」
レセがあまりにも当たり前の発言をしたからか、キリカとセリカはため息混じりに呟いた。
「イヅチさんの能力の一つは」
「無効化だよ、忘れたの?」
「うぐっ……」
さも当然の如く叱責されたレセは返す言葉もなく、肩を縮めて口をつぐんだ。
「まあ私の場合、この無効化の能力は制御できないのでずっと体の周りを膜みたいに覆っているだけですし。能力は常に発動している状態のでアオギの……というより、みなさんの能力は私には効きませんしね。だからこそアオギの世話も私がすることになったのでしょう」
ニコリと柔らかい笑みを浮かべ、双子とレセにより淀んだこの空気をその笑顔で一掃してくれたイヅチ。
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