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「ああ、そんなこと言っていたような気がしなくもないね」
「言いました」
 女性がピシャリと言い放つも、メーカーはさして気にも留めずにアオギの頭を撫ではじめる。
「やあやあ、初めまして。僕はさっき名前を言ったから、次は君のことを教えてくれないか」
 名前と言えるのだろうか、あれは。そう思いながらアオギは口を開く。
「僕はアオギ。イヅチに拾ってもらったのー」
「ほうほう、そうかそうか。イヅチは昔から捨て猫を拾ってくる子だったからな。随分と可愛がってもらっているようだね、今のところ」
「?」
「ところで、君のその目は怪我をしているのかい? アオギくん。包帯なんてして、歩くのが大変だろう」
 気になる発言を確認する暇もなく、メーカーは早々と次の話題に切り替えた。
 どうやら彼はよほど自己中心的な人格らしいが、似たり寄ったりなアオギは特に気にしていない様子で彼の問いに淡々と答える。
「ケガじゃないよ。リザたちにね、こうされた。僕の能力を封じるためなんだって。あと、歩くのも平気。見えてるからどうってことないよ」
「見えてるのか! それは凄い! ますます君に興味が湧いてきたよ。今度一緒にお茶しながら話を聞かせ……いや、むしろ今から君の能力について調べさせてくれな「用件を済ませましょうか、兄さん」」
 冷ややかな目でメーカーを蔑み、イヅチはアオギの腕を掴みこちら側に引き寄せた。
「や、やだなあイヅチ。冗談だって。ほらほら、向こうで依頼内容の情報を渡そう」
 メーカーは苦笑しながらラボの奥にあるソファーを指差し、そこに向かって先に一人でさっさと歩きはじめた。
「まったく。兄さんは何かに興味を持つとそこに一直線なんだから……アオギ、あまり兄さんに構わないでくださいね。気に入られると面倒ですよ」
「はあーい」
 二人もメーカーに続きラボの奥へと歩みを進めた。

「さてと。誘拐された社長の娘二人を保護、犯人を確保し軍警に引き渡し。という依頼内容で良いんだよね?」
 メーカーの問いにイヅチはこくりと小さく頷いた。
「それじゃあまず、娘二人についてだけど……手短に言うならこの二人のうち一人は能力持ち。といっても殺傷能力のない、風タイプの弱いものだから逃げられずにこうして誘拐されているんだが」
「能力暴走の可能性はどうなんです?」
 数枚の資料をテーブルに並べながらメーカーはイヅチの質問に首を横に振って答える。
「以前にも暴走した経緯があったようだが、そのときも殺傷事件とか大事にはならなかったようだね。もともと消えかかっている能力のようだから『無いもの』と考えていいんじゃないかな。まあ一応能力絡みだから軍警はこっちに依頼してきたみたい」
「了解しました。敵の情報はどうなっていますか」
「誘拐犯は最近、薬物の売買で目立ち始めた組織だねえ。どうやら依頼主の社長が薬物の取引現場を見てしまったとかで、処理する前に資金稼ぎをしようという魂胆らしいねえ。ちなみに、奴等に能力者はいない」
 うんうんと頷いて話を聞いていたイヅチは、一枚の資料を指差した。
「アジトはこの印がついているところで間違いないですか」
 地図の一部に赤で丸印がされている。
「アジトじゃあないよ。娘が監禁されている場所がそこ。アジトはまた別であるんだが……潰す気かい?」
 腕を組みニヤニヤと怪しい笑みを浮かべるメーカーを一瞥し、イヅチはフッ、と小さく微笑んだ。
「まさか。それは依頼内容に含まれていないですからね。依頼外はしない主義ですよ。知っているでしょう?」
「さてね。ま、今回は至って簡単な仕事内容のようだし、ちゃっちゃと終わらせてきて、そして僕にアオギくんを貸してほしいな」
 ソファーから立ち上がりながら資料をイヅチに手渡すと、ヒラヒラと手を振ってメーカーは奥の班長部屋へと姿を消した。
「では、行きましょうか」
「はーい」
 そしてイヅチとアオギの二人も仕事へと向かう。

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