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「ではアオギ、まずは仕事に行く前に確認をしておきましょう」
「はあーい」
 先ほどリザから貰った依頼内容が書かれている紙を片手に空いている席に座る。
「依頼者は重機メーカー社長、仲村さん。依頼内容が誘拐された娘二人を保護すること」
「誘拐? だったら軍警に行けばいいじゃんかー」
 説明の途中でアオギが茶々を入れ話を中断させるも、イヅチはそれを嫌がる様子もなく、淡々と説明を続ける。
「それがどうやら軍警がウチを紹介したらしいんですよ。恐らく能力者絡みですね」
「能力者? どっちが?」
「さあ。依頼者も軍警も黙秘してしまって……」
「えーじゃあどうするのー?」
 頬杖をついてあまり危機感のない声で問うアオギに、イヅチも同様に危機感のない笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ。これから情報をもらいに行くので依頼者と軍警の黙秘なんて意味を成しません」
「なーんだ。ねえ、誰から情報もらうのー?」
「そうですねえ、先にそちらから行きましょうか。それから打ち合わせをしましょう」
「はーい!」
 にこりと笑って手に持っていた資料をファイルに仕舞うイヅチに、アオギは片手を上げて元気よく返事をした。
 黒の部屋をあとにすると、イヅチは入り組んだ建物内を難なく進んでいく。そんなイヅチのうしろを、キョロキョロと周りを見渡しながらついていくアオギ。

 しばらく廊下を歩くと、壁もドアも真っ白な、今までで一番清潔そうな部屋が並ぶ廊下へと到達した。イヅチ曰く、ここの廊下に並んでいる白い扉の部屋はすべて「白」と呼ばれているらしい。ここの班の人達は「白1」、「白2」と呼び分けているとのこと。
「ここで情報をもらいます」
 いくつか立ち並ぶ扉の内、ひとつの扉の前で立ち止まる。
 アオギが上を見上げると、表札がひとつぶら下がっている。
『情報一班』
「一班ってことは、何班かあるんだよねー?」
 表札とイヅチを交互に見ながら首を傾げる。
「五班までありますよ。一班は主に組織の任務のための情報を扱ってます。ほかには、一般人や別組織に売るための情報を集める班とか、軍警からの依頼で情報収集する班もあるんですよ」
「へえー。いろんな班があるんだねえ」
「さあ、部屋に入りましょう。まだ仕事の打ち合わせも残ってますからね。時間が惜しいです」
 そういうとイヅチは一班の扉に手をかける。

「失礼します。戦闘班のイヅチです。情報をいただきにきました」
 中に入ると、デスクワークをしていたらしいスタッフ全員が2人に顔を向け、ぺこりと小さく頭を下げると再びコンピューターと睨めっこを始めた。
 その中の一人の女性が、ツカツカとヒールの音を鳴らしながらいくつかの資料を持って近づいてくる。
「こんにちは、イヅチさん。お待ちしておりました。本件の情報は揃ってますよ」
「ありがとうございます。さっそく頂戴してもよろしいでしょうか」
「ええ」
「やあイヅチ。久しぶりだね」
 女性の奥のほうから小さく手を振りながらニコニコと愛想のよい男が歩いてくる。
 アオギはその男とイヅチを交互に見つめ、ぼそりと呟いた。
「似てる」
「やめてください」
 ピシャリと威圧のある声で拒否したイヅチの顔は、アオギにとって今までで初めて見るものだった。
 冷ややかなそのイヅチの視線を浴びても特に気にも留めないその男は、イヅチの目の前まで来ると自身と同じくらいの身長のイヅチの頭を撫ではじめた。
「やあやあ、久しぶり、イヅチ。元気だったかい」
「やめてください、兄さん。私はもう子供じゃありません」
「『にいさん』? イヅチのお兄ちゃんなの?」
「そう、イヅチの兄です。僕のことはー……そうだな、メーカーとでも呼んでくれ。皆そう呼んでいる」
 イヅチに問うたはずだったが、すかさず兄が答えてしまった。
「君はー……誰だい? 初めて見る顔だね」
 イヅチからアオギへと興味が移ったらしいメーカーはアオギの目線に合わせるようにしゃがみ込み、ふむふむ、とアオギの姿を上から下まで舐め回すように眺めた。
「先生、先日お話したじゃありませんか。戦闘班に新たに配属される方がいると。お忘れですか、先生」
 メーカーなんて誰も呼んでないじゃん。アオギの興味が逸れた瞬間だった。

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