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 最初に入った部屋(通称:灰)とは別の、『黒』と呼ばれる部屋へとイヅチに連れられてきたアオギ。
「ねえねえ、イヅチ。『灰』とか『黒』とかどうしてそんな名前の部屋ばかりなの?」
「それはですねえ、リザはあの通り結構面倒くさがりでしょう? そこで、『第一会議室』とかいう長い名前は言いたくない覚えにくいと駄々をこねたので色の名前にしたんですよ」
 本気か冗談かどちらにも取れるような答えをクスクスと笑いながら述べるイヅチに、アオギは大きく頷いた。
「さすがリザだね!」
「ちなみに、先程の『灰』の部屋は全組員が入れる広さだったでしょう? それで、様々な班が集合し会議することが多々あるので、グレーゾーンという意味で『灰』という名前です。ほかの部屋の名前は特に意味はないんですけどね」
 その時、向こうからセーラー服を着た若い女がアオギとイヅチに向かって歩いてくるのが見えた。
「アオギくん……だったよね?」
「そーだよー」
 アオギの目線と同じ高さに合わせるように腰を落とし微笑む彼女は、この組織には似合わない場違いな存在だ。
「私、エカチェリーナっていうの。戦わないんだけどね、バイトとして働かせてもらってるのよ」
「エカ! そっか、君がエカなんだ! シュラからエカの名前聞いてたよ。外国人?」
「そうよ。母と一緒にロシアから来たの。バイトがしたいって言ったら父の紹介でEMPで雇ってもらったのよ」
 えへへ、と笑みを浮かべるとエカは長い金色の髪を耳にかける仕草をする。それがまたどこぞの高貴なお嬢様のような上品さを醸し出していてますますこの組織には似つかわしくない。
「目、青くてきれい」
 身を乗り出してエカの透き通るような青い眼をじっと見つめるアオギに、エカは照れ笑いを浮かべる。
「ありがとう。そうだ、私、お菓子作ることが好きなの。だからこれ、アオギくんにプレゼント。これからよろしくね」
 スカートのポケットから取り出したのはクッキーで、アオギはさっそくそれを口に放り込む。
「おいしい! ありがとう、エカ大好き!」
 一気にクッキーをたいらげると、エカに強く抱きついた。
「まーたエカちゃんのお菓子攻めに落ちた奴が一人増えたぞー」
「エカちゃんの作るお菓子はどれもうまいからね」
 あちこちから笑い声が聞こえ、黒は途端に騒がしい空間に変化した。

「お前、頭領を怒らせるようなことでもしたのかー?」
「え? どういうこと?」
 突然の質問に困惑したアオギは首を傾げて聞き返す。
「さっき、頭領が『役に立たないようなら殺してもいい』つってたろ? あれ、頭領に何かしたからそんなこと言われたんじゃねーの?」
 30代半ばくらいの無精髭を生やした男にそう聞かれ、首を傾げたままイヅチに視線を送る。
「そうなの?」
「いや、私に聞かないでくださいよ。分からないですから」
 アオギよりも更に困惑の色を見せるイヅチに、アオギは「そうだよねー」とだけ言って視線を外した。
「でもあのリザさんだからね。そんなこと言っても納得だよ」
「確かに……『仲間殺しの三代目』だもんね」
 不意に聞こえたリザへの悪口。
 アオギはそれに反応した。
「仲間殺しの三代目? なに、それ」
「リザさんはね、数年前の組織内の派閥争いで先代とその部下……つまり、自分の仲間を何十人も殺して頭領の座についたって言われてるんだよ。その時からの幹部の人達が『頭領の座欲しさに先代を殺した恩知らずだ』って陰で言ってるの」
「頭領は先代に拾われて育ててもらったんだ。その恩人を殺したんだ。冷酷にもほどがあるぜ」
「それにいつも言ってるよね、『使えない奴は切り捨てる』って。あれは本気でやっちゃうよね」
 続々とアオギの周りに人が集まってきてリザの話を始めた。
 聞きたかった内容を聞けたアオギは、ほかの話に興味がそそられることなく皆の話に割って入る。
「それで、みんなはリザが嫌いなの? ここを辞めたいの?」
 その一言に全員が吹き出した。
「そんなわけないだろ。何があったにせよ昔のことだ。それにリザさんには世話になったしな。最後まで付いて行くさ」
「そうそう、当時その場にいなかった私達が本当のことなんて知らないし」
「頭領が嫌いならすでにここにいない」
 どうやら皆、ただ単に噂話が好きなだけのようだ。
「なーんだ! 辞めたい人がいるなら、僕が上位にいける確率上がるのになー」
「生意気なガキめ! そんな簡単に上位にいかせるかよ」

「ねえ、イヅチ。リザが昔、先代と仲間を殺したのって本当?」
 しばらく騒いだあと、皆が仕事に戻り再び二人の空間になったところでアオギが切り出した。
「信じるんですか?」
「まあ、あながち間違ってはいないかなーって思うけど」
「あなたは本当に時々大人のような言葉を使いますね。正解ですよ。半分は本当、半分は虚言です。リザは冷酷な性格ではありますが、そう簡単に仲間を殺したり殺させたりはしませんよ。無関係な人間はさっさと切り捨てますがね」
「じゃあ、先代は……?」
 イヅチは小さく頷いた。
「二代目を自らの手で葬ったことは事実です。でも恩知らずなんかではありません、決して……リザは、誰よりも二代目を慕っていましたから」
 ふとアオギが見上げると、イヅチは怒りと悲しみと憎しみを宿した目をしていた。
 しかしアオギが見ていることに気づくとソレを押し込め、いつもの穏やかな表情に戻った。
「これ以上は言えません。聞きたいなら、本人に直接聞いてください」
「いいよ。別にそこまで興味はないからー」
「ふふ、それでこそアオギです」

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