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「そろそろ機嫌を直してくださいね、二人とも」
 会社へと到着し、車を降りながらイヅチが声をかける。
 すると二人はちらりと互いの様子を窺うと、目が合った瞬間に睨み合い、そっぽを向いてイヅチの言葉に返事をすることはなかった。
「まったく……アオギは誰とでも仲良くできるかと思ったのですが……違ったみたいですね」
「仲良くできるよ。でも僕のこと嫌いっていう人にこっちから仲良くしたって面白くないもん」
 ふんっと鼻を鳴らして捲し立てるアオギに、もうイヅチは何も言えなかった。

 ホテル業を営む『表向きの会社』とは別の入り口から入ると、組織に直通するエレベーターに乗り込む。
 この高層ビル自体はリザの所有物であり、もともとはEMPのみで使用する予定だったが、「EMPの所在を大々的に広めるのはまずい」という結論に至り、半分はホテルにしたのである。
 ビルは3棟あり、中央の一番高さがある棟の3分の2――全60階――がシティホテル、残りの上部3分の1――全10階――が組織が使用している。もちろん組織の事務所へ行くには別ルートを通らないといけないため、エレベーターは60階までしかボタンがない。
 そして両端にある20階建てのビル2棟のうち1棟は様々な商業店舗、ショッピングセンターやレストランが入居しているテナントビルになっており、もう1棟はスポーツジムになっている。そのジムの上部5階―防音設備となっている―はEMPの訓練施設として使用されているため、エレベーターの表示は15階となっている。

「おいおい、なんだお前等。朝っぱらから険悪だなあ! あっはっは」
 組織の事務所に着くなり、自身の席で踏ん反り返っているリザがシュラとアオギを見て大笑いする。
「今朝、家を出る前に少しばかり喧嘩をしてしまったんですよ、彼等」
「仕事に支障をきたすようなら問題だが、まあこの程度なら大丈夫だろうな」
 二人を交互に見たリザは頷くとその部屋にいる全員に聞こえるように声を上げる。
「全員注目! 今日から新人が入る! 戦闘員だ。アオギ、こっちへ」
 アオギを手招きすると、彼の肩に手を乗せながら再度大声を出した。
「アオギだ! 能力者なんだが、どうやら記憶喪失らしくてな。能力がまだ曖昧だ。仕事のほうはしばらくペアを交互に組ませるから、ペアになった者は厳しく指導してくれ。役に立たないようならその場で切り捨てて構わん。個々の判断に任せる」
 その瞬間、室内にざわめきが起こった。
「その場で切り捨てるって……殺せってことですか、頭領」
「いくらなんでもそれは厳しすぎじゃ……」
 今まで新人に対してそういったことは言わなかったリザに、続々と不満の声が上がる。
 だがリザはそれをものともせず全員を睨み付ける。
「私は殺せと言った。そして、個々の判断に任せる、とも言った。アオギを殺したいと思った奴は殺せ。私が許可する」
 そして、ニヤリと笑った。
「ただし、自身の命を落とすことを覚悟しておくんだな。アオギは加減が出来ない。そうだろ、アオギ。黙って殺られるわけないよな?」
「当たり前だよー? 殺される前に殺してあげる」
「ということだ。さて、質問は?」
「はい。アオギくんの目、事故か何かで見えないんですか? そんなんで仕事ができるんでしょうか」
 1フロアに50人ほどいる中の1人が手を上げて質問を繰り出す。
「大丈夫だ、見えている。包帯を巻いてる理由は……まあいろいろあってな。それは個人で解決しろ」
「面倒くさくて端折りやがった」と、全員がリザの心境を読めてしまった。
「じゃあもうないな? では解散! 仕事再開だ」
 その合図で皆、先程いた作業位置へと戻って行った。
 そしてアオギはリザとイヅチとともに頭領専用の部屋、いわゆる執務室へと連れて行かれた。

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