12
「私は先に行くぞ」
リザは朝食をさっさと食べるとEMPへと向かってしまった。
他の皆はゆっくりとたいらげ流し台へと茶碗を運ぶ。
「さて、これを片付けたら私達も行きましょうか」
お皿を洗いながらイヅチがアオギに声をかける。
「はーい!」
「俺も一緒に行っていいっすか」
アオギの返事に重なるように言葉を発し居間へ入ってきたのは、先ほど部屋へと戻ったはずのシュラ。どうやら準備を済ませて降りてきたらしい。
「そうですね、一緒に行きましょう。これを早々に終わらせますので少し待っててくださいね」
微笑んだイヅチは皿洗いを再開した。
「そういえばアオギ」
イヅチの背からアオギへと視線を移し、シュラはアオギの向かいに座る。
「会社に行くのはこれが初めて?」
「かいしゃ? 会社って、組織のことー?」
「そうだよ。EMPのこと。EMPは表向きは普通のホテルだからね」
「こうこく……? なにそれー」
答えるのが面倒だと感じたシュラは、首を傾げるアオギをスルーして話を進める。
「で、初めてなのか、EMPに行くのは」
「ううん! 今日が2回目だよ。イヅチに連れて来られたときに一回行った! まあ中のほうは見て回ってないから全然分からないけどね」
「へえ。じゃあアイツには初めて会うのか」
遠くを見るような目で空を眺め、『アイツ』とやらを思い浮かべているであろうシュラをジッと見つめて再び首を傾げるアオギ。
「アイツって?」
「エカのことですね」
片付けが終わったようで、イヅチが手を拭きながら話に割って入る。
「エカ?」
「エカチェリーナです。思いやりのある優しい方ですよ」
「そっか!」
イヅチ以外には興味を持たないアオギはやはり薄い反応。
それを一瞥してシュラは立ち上がった。
「やっぱり俺、アオギ苦手っす。よく一緒にいれますねイヅチさん」
「話が続かない」とぼやき、玄関へと歩いて行く。
そんなシュラにイヅチは苦笑いを浮かべるだけだった。
「だってー、興味ないんだもん! というかシュラがもともとあまり話さないだけでしょー? 僕に文句言わないでよ」
ぷいっと顔を背けて口を尖らせたアオギの頭をイヅチが撫でる。
「まあまあ、そんなこと言わずに。アオギもはっきり言いすぎですよ。少しは『気遣い』を覚えたほうがいいですね」
「ぶーっ」
いじけてしまった。
そこからの3人は何かを話すこともなく、車内はEMPに着くまで空気が悪いままだった。
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