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「リーザー! 来たよー」
 リザの部屋の障子を開けると、アオギはトタトタと駆け寄る。
 部屋には、リザはもちろん、イヅチもすでにいてアオギを待ちわびていた。
「やっと来たか。そこに座れ」
 部屋の中央にポツリと設置されたテーブルのほうを指差すと、リザは今まで座っていた椅子から立ち上がり、自身が指差したその向かい側に腰を下ろした。イヅチはリザの斜め後方にゆっくりと正座する。
「これから大事な話をする。一度しか言わないからよく聞けよ?」
「はーいっ」
 大きく片手をあげて満面の笑みで返事をするアオギ。
 それを聞くと、リザは目を伏せて頷き、『大事な話』とやらを始めた。

「アオギ、お前は明日からEMP戦闘要員として配属する。1ヶ月間は誰かとペアを組んで依頼遂行させる。いいな?」

 鋭い眼光を向けるリザから視線を逸らすことなく、アオギはそれをきっちりと受け止めて大きく頷いた。
 いつものふざけた様子など微塵も見せることなく。
「よし。じゃあ何か質問は?」
 ピリッとした空気が和らいだ。
「質問! ひとーつ! まずは、だよ? いくつかあるからねっ?」
 アオギは先程の真剣さが嘘のように身を乗り出し騒ぎ出す。
「わかったから、さっさと言え」
「えっとねー、僕は『ナンバー』はもらえないの?」
 自分の顔を指差しながら首を傾げた。
「当たり前だ。最初から『ナンバー付き』になれる訳ないだろ。アレに入れるのは依頼遂行数と成功率で変動する。だからお前も頑張ればナンバー付きになれるだろうな」
「そっか、じゃあ頑張る!」
 まあ、頑張らなくともあの非情さと実力をもってすればすぐにでも上位になれるだろう。
 リザは腕組みをしながらアオギの成長を内心楽しみにしていた。
「次の質問はねぇ、何をもって僕を戦闘要員に加えようと思ったの?」
 アオギは時々、子どもとは思えないほどの思考を垣間見せるときがある。
 予想外だった質問に多少驚きながらも、リザは冷静に返答を始めた。
「さっきの連中いただろ? あいつらは私が仕掛けたものだ。EMPを敵対視している組があってな」
「リザ!」
 彼女の言葉を遮ってイヅチが声を上げた。
「いいんだよ、イヅチ。別に隠しておくことでもない。それにこの表情、下手な嘘はつけないだろ?」
 そう言ってアオギに視線を向けると、彼は顔上部に巻いた包帯越しにでもわかるほどに真剣に、真っ直ぐにリザを見つめて答えを待っている。
「その敵対視してくる組を煽って、お前がどれくらいまで成長したか試したんだよ。何も知らずにのこのこやって来たそれなりに強い相手を、お前は初戦にも関わらず機敏に対処した。見事だったよ。だから、合格なんだ。これでいいか?」
「うん、わかった! 僕が強かったから戦闘要員になれたんだね!」
「あ、ああ。要約するとそういうことだな」
 言ったことをちゃんと理解できているのかは不明だが、まあ本質は捉えているらしい。
 呆れ気味に笑みを浮かべるリザに、アオギはにっこりと笑った。
「質問は終わりだよ!」
「ほう、これだけか。いくつかあると言うから心してたんだがな。仕事内容とか聞かなくていいのか」
 テーブルに肘をつき頬杖をするリザ。
「うん、別にいいよ。だってこれから分かることでしょ? 今聞いたって実際にやってみないとよく分からないだろうし、聞かない!」
 また子どもとは思えぬ言動。記憶を失う前は、もしかしたらとても頭のキレる子だったのかもしれない。もしくは年齢が見た目よりもっと上なのか……。
 じっとアオギを見据えながら、リザとイヅチはそう考えた。

「お前が仕事内容聞かないからこっちから言う羽目になったじゃねえか。簡単に説明するからこれだけは覚えておけ」
「なんだ、結局聞かないといけないんじゃーん」
 口を尖らせてテーブルにベターっと顔をつけ文句を垂れる。
「うるさい。聞かないお前が悪い。まず、EMPは簡単に言えば『なんでも屋』、もしくは『便利屋』みたいな組織だ。どんな依頼でもこなす。といっても、こちらも依頼を選別するがな。だが周囲からは『殺し屋』と言われるほうが多い。ま、殺人依頼の数が多いからそう言われても仕方ないんだがな。そして戦闘員には異能の力を持つ者が多い。ナンバー付きは皆そうだが、それ以外にも何十人かいる。それもあってかEMPは『殺人集団』と言われているが、気を悪くするなよ。名誉ある名だと思え」
「えー? いいじゃん殺人集団! かっこいい!」
 ケラケラと笑いながら手を叩くアオギに、リザは困ったように笑う。
「まったく。お前はほんとポジティブだよな。それともう一つ。依頼主の名は他言無用だ。それが組織のルール。何せEMPはどこにも属さない中立だから、政府から依頼が来ることもマフィアから来ることも、はたまた一般市民から依頼が来ることもある。口は災いの元だ、気をつけろよ」
 声を潜めるように話すリザにアオギは身を乗り出してコクコクと頷いた。
「よし、それだけだ。もういいぞ。じゃあアオギ、明日からよろしくな」
 テーブルに手をつき膝立ちすると、リザはアオギに右手を差し出し握手を求めた。
「うん! よろしくね、リザ!」
 そしてアオギはその手をなんの躊躇いもなく握る。

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