09


「アオギ」

 男から刀を抜くと同時に後方から声をかけられた。
「リザ! おかえりなさい」
 返り血を大量に浴びたその姿で振り向くと、満面の笑みでリザを迎える。
「アオギ、こいつら……お前一人でやったのか?」
 顔色一つ変えず問い質すリザはさすが殺人集団のトップというべきか。
「うん! あっ……殺しちゃダメだった?」
「いや、問題ない。とにかく、お前は早く風呂に入れ。ここの処理はこちらでやっておく」
「はーい」
 元気よく右手を上げると、その手に持っていた刀に気づき、それを握りしめたままリザに向ける。
「リザー、これどうしよう? 居間にあったやつ、勝手に使って汚しちゃった……ごめんね?」
 首を傾げて上目使いで謝罪するアオギに、リザは前髪をくしゃっと上げながら息を吐いた。
「はあ……ただの装飾品だったが、使ってしまったのは仕方ない。綺麗にしておくからさっさと風呂へ行け」
「わかったー!」
 血塗れの刀をリザに手渡し、アオギは上機嫌で屋敷へと入って行った。
「ったく、初戦でこれだけ戦えるなんて……やっぱりこの一族の戦闘能力は侮れんな。それに、あの機嫌の良さ。あれは殺人を楽しんでる。一族の潜在意識か……ま、地道に『目的』へ進めばいいか」
 そう呟くと、組織の清掃班を呼び出し、もう動くことのないただの肉塊と化したモノたちの処理を始めた。

「どうでした? リザ」
 片付けが終盤に差し掛かった頃、リザの傍にイヅチがやってきた。
 リザはイヅチに向くことなく片付けの様子を眺めながら口角を上げる。
「素晴らしいよ。決して相手が弱かった訳じゃないが、能力を使わずにこの圧倒的な戦闘力。これはEMP内でもトップを争うだろうな。」
「そうですね。武闘派として有名なあの武装集団『臥龍(ガリュウ)組』をたった一人でここまでとは。『合格』ですか?」
 腕組みをしてニヤリと笑うイヅチに、リザも同じ笑みを返した。
「当然だ。それに、前々からちょっかいかけてきてた臥龍の奴も邪魔だったし、良い機会だったよ。少しつついただけでアオギの試験用にこれだけ集まってくれた上に、アオギの限界があんなもんじゃない事まで教えてくれたんだ。臥龍もたまには役に立つ」
 ハハッ、と大口を開けて笑うリザに、イヅチは小さく息を吐いた。
「まったく。リザも人が悪い。『そろそろアオギの試験をするから相手を集める』って言ったかと思えば、臥龍の組長に発破かけてわざとEMPを狙わせるなんて……」
「いやー、だって死ぬリスクがある試験にウチのもん使うのは御免だよ。臥龍も、こうなってしまってはしばらく何も仕掛けて来ないだろうし一石二鳥だろ?」
 どうやらリザの中ではいろいろ計算され尽くしてこの結果らしい。もちろん成功のようだ。

「じゃああとは頼んだよ。いつもと同じでいいからな」
「はい」
 清掃班に声をかけると、その返事を聞いたリザは頷いて家の中へと入って行く。その後ろからイヅチも後を追った。
「イヅチー!! 僕ね、お家守ったよ!」
 計算済みの襲撃だとは露ほども知らないアオギは風呂上りで体から湯気を立たせながらイヅチに駆け寄ってきた。
「そうですね、ちゃんとお留守番できたようですね。ありがとうございます」
「えへへー」
 アオギは照れ笑いを浮かべ、イヅチの袖にしがみつく。
「ほら、ちゃんと髪を乾かしてきなさい。それが終わったらリザの部屋に来てくださいね。大事なお話があります」
 アオギの頭にタオルを乗せてごしごしと拭きながら告げる。
「リザの? わかったー」
 一体何を言われるのだろうかと不思議がるも小さく頷くと、アオギは髪を乾かしに風呂場へと戻って行った。

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