08


 何時間寝たのだろうか。
 アオギは小さな物音と妙な気配で目が覚めた。
 音は門の外から聞こえてくる。
 15……いや、20人ほどの男の足音。
 セールスというわけではなさそうだ。

「ねえ、何してるの? 殺気が駄々漏れだよ?」

 訓練で鍛えられた身軽さを活用し、築地塀の瓦の上に立つ。そして門の前に集まっている男たちを見下ろしなんの躊躇いもなく声をかけるアオギに、武装した男たちは戸惑った。
「ど、どこから現れた!?」
「なんだこの子どもは!」
 男たちは皆一斉に銃を手にするとアオギに向かって構えた。
「お前はEMPの者か?」
 その集団のリーダーと思われる男がアオギに銃口を向けながらそう問うと、アオギはにっこり笑って首を横に振る。
「まだだよー? まあ、いずれは入るみたいだけどねっ」
「撃て!」
 アオギが言い終わらない内に射撃命令を出すリーダーの男。それに従い、全員がアオギ目掛けて銃を乱射した。
「ちょっとー! なんで撃つのさ。僕何もしてないじゃん!」
 突然放たれた銃弾から逃れるように、アオギは慌てて門の内側に降りて外へ向かって叫ぶ。
 すると射撃の音は止み、リーダーらしき男が言葉を返してきた。
「いずれEMPに入るのであればお前も敵だ。今ここで処分してやる!」
「ふう。まったく酷い話だよね。訳がわからないんだけど、僕」
 声がしたのは集団の後方。
 反射的にリーダーの男は声のしたほうを振り返り、その光景を見て目を見開き固まった。
 そこには、一人の男の後頭部に――小脳から前頭葉にかけて――刀を突き刺し、にやりと笑うアオギがいたのだ。
 そしてアオギは刀を抜き取り男から離れると、男は仰向けに倒れ、これでもかというほどに両目を見開き、ピクピクと体を痙攣させる。頭に開けられた切り口からは血液と髄液が混ざり合いながら流れ出てアスファルトを赤黒く染めていった。
「お前……!! いつの間にそこに!!」
「えー? だってさっき見たとき、後ろガラ空きだったんだもん」
 血の付いた刀を2、3回振り、その血を吹き飛ばしながら笑う。
「俺達の組に手を出したとなりゃあ、タダじゃ済まねえぞ? 覚悟は出来てんだろうな?」
「先に手を出したのはそっちなんだからね? 僕は悪くないよ?」
 怪訝な顔をして正当防衛だと主張すると、アオギは次の標的を定めた。
「僕、まだ戦闘ってしたことないんだよね。今の人が、僕が初めて殺した人なんだ! 第一号だよ。そして次……君が第二号、だね?」
「ヒィッ……!!」
 近くにいた男に刀を向け微笑むと、男は青ざめて後ずさりした。
「おい、何逃げてんだ!! ガキが持ってんのはたかだか刀一本だろ! こっちは銃なんだビビってんじゃねえ! こっちのほうが攻撃は速いに決まってんだろ!」
 リーダーの男が叫ぶと、アオギに標的にされた男は銃口をアオギに向け、引き金を引いた。
 が、目の前からアオギが消え、
「遅いよ、お兄さん」
「ごふっ……がっあ……あああ」
 声にならぬ声を上げ、男の首はぱっくりと割れた。
 アオギはいつの間にか男の目の前に来ていた。
「ふふふ、楽しいね、殺すって」
「お、お前っ……!! その包帯……目が見えないんじゃないのか!?」
 アオギの素早さについに慌てだしたリーダーの男は、銃口をアオギに向けながら問うた。
「見えてないように見える?」
 いたずらっ子のように笑いながら刀を構える。
「う、撃て!! 全員、撃てええええ!!」
 そして再びアオギ目掛けて一斉射撃が始まった。
「戦闘ってこんなに面白いんだね! 次はどこを切ろうか? 頭? 首? でもそこはもう試したし、よし、次はおなかを切り刻んであげる!」
 まるで血に飢えた獣のように男たちを切って回る。銃弾がかすめても関係なく刀を振り回し、血を浴び喜ぶ。
 これはもう、殺人狂。

「や、やめろっ!! 来るなっ!! みっ見逃してください!!」
 腰を抜かしへたり込んでいるリーダーの男はアオギに懇願した。
 周りを見回せば、20人いた屈強な男たちが全員切り刻まれ、血にまみれて地面に転がっている。
 武装した大の男たちが、たった一人の子どもに全滅させられたのだ。
「ねえ、君は撃たないの? 僕を殺そうとしないの? 殺意はないの?」
 刀を引きずりながら、アオギはリーダーの男に一歩一歩近づく。
「う、うるさい! 来るなああああっ!!」
 バンバンバンッ! カチッカチッ……。
 目を瞑り、銃を乱射して残りの弾を全部使い切ってしまった男にアオギはため息をついた。
「目を瞑って撃ったら当たらないのは当然でしょ? あーあ、つまんない」
「や、やめてくれ……」
「反撃もしないなんて。はあ……最後の最後でがっかりだよ」
 そう呟くと、アオギは男の心臓に刀を突き立てた。

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