The smiling face of a sun
“手術が成功したら、またサッカーやるんだ。今までより、思いっきり!”
満面の笑顔で言っていた太陽を思い出した。私は嬉しくなって、看護婦さんに怒られるまで騒いでいた。だけど嬉しさは止まることを知らずに、二度目の注意を五分後にくらった。
手術は成功するだろうみたいなことを小耳にはさんだ。嬉しいから、喜んだのに。何だか複雑なんだ。靄が晴れない。
「どうしたの?」
「あ…ううん。何でもない」
考えれば太陽に心配される。心配は、かけたくないのに。でもその心配さえも嬉しい。ちょっとだけでも、太陽と話せるから。退院したら、会話どころか会える回数が減ってしまう。
嫌。行かないで。太陽。寂しいよ。置いてかないで。
「…花菜」
「何?」
思っていることを素直に言えたらどれだけ楽だろうか。でも太陽を困らせたくない。私で縛りたくないの。
でも、でも。
「退院出来るのは確かに嬉しい。サッカーが出来るし、友達とも会える」
「そうだね。サッカーは太陽の生き甲斐だもんね」
「うん。だけどね、花菜」
白い私の手を取って、太陽が目線を合わせてきた。嗚呼、綺麗な青い目。私は貴方のその瞳も好きなの。強い目が。
だけどどうしたの?何故寂しそうな目をするの?
「君に会えなくなる回数が減るのは、辛い」
「たい、よ…?」
「君はまだ治る見込みがない。そう医者に言われてるよね。だからまだこの病院に居なくちゃならない。君を置いていくような感じで、嫌なんだ」
…なんだ。太陽も同じだったんだね。そうだね。私はまだ治らないって言われてる。この白い肌も、病気のせい。太陽よりも白い肌。
涙目の太陽。もう、男の子なのに泣かないの。涙目にならないで。私まで泣いてしまう。
それに太陽には笑顔しか合わないよ。私は太陽の笑顔も好きなの。だから泣いたりなんか、しないでよ。寂しくったって、泣かないで。
「太陽」
「なに…?」
「私もね、同じこと思ってたの。太陽と離れたくないって。だって太陽は、私の一番最初の友達で、最初で最後の好きな人だもの」
「…でも」
「もー、しっかりしてよ。ずっと離れるわけじゃないでしょう?たまに会いに来てよ。ね、だから笑ってよ」
まるで自分に言い聞かせてるみたいに、私は言った。泣くのを堪えて、精一杯。目を閉じるな。泣くな私。ずっと生きられるとは言われてないけど、まだ死ぬって決まってはないもの。また会えるよ。話せるよ。
私は大丈夫だよ。
「…絶対お見舞来るから」
「うん」
「僕が迎えに来るまで、待っていて」
「うん」
「約束、ね」
「解った解った」
「僕は、花菜が大好き」
「私も太陽が大好き」
えへへ、と二人して笑う。太陽もやっぱり泣くのを堪えてたみたいで、涙目のまま笑った。涙が溢れそうだったけど、泣き笑いは反則だからしないでね。
君は、皆を照らす太陽なんだから、雨なんか降らしちゃいけないよ。
The smiling face of a sun
(暖かい笑顔が大好き)
企画:銀河のひとみ様に提出
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