心が壊れたその先はとてつもなく深いものでした


最近、太陽がおかしくなった。お見舞いに行く度行く度、何かしら物が壊されているのだ。私はそれをちゃんと片付けるけど、どうも懲りないようで。しかも私が来る前と病室から出た後は、何かぶつぶつと呟いているのだ。
今日もそんな感じで。ドアに耳をくっつければ、少しだけ聞こえる太陽の声。何を言っているかまでは判らないが、兎に角心配だ。
二回ノックをすれば元気な声が私の耳に入るのだが、最近のことといい、先程のことといい、気になるばがりだ。私は苦笑いして病室に入るが、それは太陽には見抜かれていた訳で。


「…元気無さそうだね。何かあった?」

「あ、いや。何でも無いよ。少し疲れちゃってるだけかも」

「そっか…。無理してお見舞いに来なくてもいいんだよ?それで体壊しちゃったら…嫌だし」

「無理はしてないよ。それに来たくてお見舞いに来てるんだから。ちゃんと休むから大丈夫だよ!心配してくれてありがとね」


買ったばかりの花を花瓶に活けて、真っ黒なテレビを見る。…そういえば、テレビすらも見なくなったなぁ…。以前はテレビに釘付けで、ノックの音にすら気付かなかったのに。まあそれでドアに耳をくっつける癖が出来てしまった訳だけれども。

(あんなに楽しそうに見ていたのに…)

太陽の目に光が無くなってしまった気がするのは何故だろう。雰囲気もなんだか前とは違うし、何が太陽を変わらせたの?原因を知れば、太陽は元に戻る?
悶々と考えていた私に、太陽が話し掛けてきた。


「花菜」

「うん?何?」

「花菜は僕の傍から居なくなったりしないよね」

「?うん。どうしたの、急に」

「…」


黙ってしまった太陽。何か怖い夢でも見たのかな?と呑気に考えていたら、今にも泣きそうな目でとんでもないことを聞いてきた。


「じゃあ、事故に遭ってよ」

「…は……い?」

「こないだテレビで花菜と同じ名前の子が事故に遭ったって言ってたんだ。その時は吃驚したけど、よくよく思えば事故に遭えば病院に居られるもんね。近くに居られるよ」

「た…たい、よ…?」

「あ、それとも…いっそのこと、心中してずっと一緒に居ようか。だって花菜は僕の傍から居なくなったりしないもんね?一生独りにしないよね。花菜は約束守る人だから、守ってくれる、よね」


私は怖くなって、後退りをしてしまった。太陽は離れていくと勘違いしたのか、手首を掴んできた。あまりの怖さに私は声も出なく、ただ怯えるだけだった。
綺麗な瞳なのに。今はどす黒く見えてしまう。優しく微笑まれても怖さを増す一方で、全く気持ちが和らがない。心拍数は上がって上がって上がって上がって―――破裂するのではないかというぐらいに脈を打っていた。嫌な汗も出てきて、気持ち悪い。どうすればいいのかわからない。


「大丈夫だよ。僕が居る。安心していいんだよ」

「あ…、…あ…」

「一緒だから。ずっと一緒だから不安なんてやってこないよ。…だから」

「…ぁ…」

「―――世界にさよならしよう」


抱き締められて混乱して。頭の中もぐちゃぐちゃになって。何が正しいのか何が間違っているのか、今の私は判断出来なくなってしまっていた。

セカ イ ニ、サ ヨウナ ラ。

私の知っている太陽は居なくなっていて、私が知っている私も見失ってしまって、数分後、私達は世界から消えたのだ。





(一緒なら)
(何も怖くないね)






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