どろどろの嘘吐き


※大分グロいので注意










「また嘘吐いたでしょ」

「つい、てなんか」

「だっておれ知ってるよー?一緒に帰ろうって言ったのを断って、他の男子と仲良く帰ってたの見たもん」


違うの違うの違うの。私は天馬と帰りたかったの。それにあれは笑顔の仮面なの。ああしてないと人に妬まれてしまうから。
そう言いたくても天馬への恐怖で声が出ない。ただぱくぱくと口を動かすことしか出来ない。
壁に迫られた時に見た、右手に付着した血。彼が何をしたかなんて、私には判る。もう何回もしてきたことなんだ。
雷門で起こる“奇っ怪な殺人事件”。犯人は未だに捜索中。だが私は知っている。天馬が、松風天馬が彼等を殺しているのだ。それも天馬から見て私と親密に関わった人達を。


「今回はねー、無難にカッターで刺したんだ!包丁は持ってこれないし借りれないし、仕方なくカッターなんだ。ほらこれ!」

「…ぅっ…」

「何で泣くの?あと吐くのはやめてよ。これは花菜の為なんだから!」


にっこり微笑まれても困る。いつもサッカーをやってる時の笑顔と違う顔は見たくない。笑顔じゃない黒い笑顔は見たくないの。
天馬の手中にあるカッター。その刃の先には気持ち悪い何かが刺さっている。まともには見られない位グロテスクだ。極力そちらに目を向けないようにしようとすると、少しでも視界に入るように天馬がカッターを動かす。正直これが人間のどこかの一部だとは思えない物を見せつけるだなんて、天馬は酷なことをする。


「わっ…たし、て…まの…良いと…ろをき聞…て、たの…」

「ふぅん」


やっとの思いで出た言葉。単語が区切れて聞き取り難い。果たして天馬にはちゃんと伝わっただろうか。怯えている上に泣いて吐きそうになる私。もう限界だと体が言っている。言う、というより叫んでいるな、これは。
冷静なのか判らないな。こういう状況だったら、もっと本来は頭の中がぐちゃぐちゃしているのではないだろうか。


「あ、これね、殺した人の膵臓!膵臓は一個しか無いから貴重だよ」

「すぃ…ぞ…?」

「そう!だから俺は世界に一つしかない花菜の膵臓も欲しいな!」



声を上げることも出来ず。私は呆然と天馬を見た。驚いたと言えば驚いたが、一瞬世界が真っ白になった気がしたのだ。つまりは、気が遠退いた。


「だって花菜は前、俺に“私は天馬のものだもんね”って言ったよね。じゃあ膵臓も俺のもの」


天馬との付き合いたてに言った言葉が今になって出てくるなんて、思ってもいなかった。目を見開いて、カッターに付いていた膵臓をペッと捨てると、カッターの刃を伸ばした。


「待って…私まだ…」

「君は俺のものなんだから、今更楯突こうなんて思わないでよ。君が躊躇したって意味無いからね?…それともあの時の言葉は嘘だっていうの?」

「だっ…、そ………」

「嘘吐き」

「待っ………」

「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き、」

「てん」

「う そ つ き」


目の前が赤に染まって、黒に染まった。痛みって、何?
私は私を見て、私は上に上がっていった。天馬は私に見向きはせず、私の膵臓を持って高笑いしていた。





(そうかこれが、)
(死というものか)






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