甘党苦味少年


「剣城ってさ、コーヒーよく飲むよね」

「まあな」

「苦くないの?」

「全然」

「…素っ気ない」


目の前に居るのは、剣城京介。
サッカーを潰そうとしていた彼だけど、今はもう丸くなっている。
ふふ、昔とは大違い。
何があって剣城をこんな風にしたのかは判らないけど、凄く感謝感謝。
お陰様で私は剣城と付き合ってます。

剣城が好きな子は沢山居たけど、中々みんなは告白出来ずじまいだったらしい。
その中の私は、勇気を振り絞った。

告白した時の剣城の顔!あれはもう携帯に納めるしかないよ!パシャッと!


「あれ、剣城どうして引いてんの?」

「……お前鼻血出てるぞ。何息荒げて興奮してんだよキモいな」

「やだっ、彼女にキモいとかないじゃない」


妙に鼻が温かいと思ったら、鼻血が出ていたのか。
もう、ツンデレな剣城を思い出しただけだよ!あんなそそる顔するから!

いつかは、少し赤めの唇に…。
あれ、剣城さっきより凄い引いてる。
やだ、どうしたの?


「お前、今日はもう帰れ。床が汚れる」

「え?」

「鼻血出しすぎだ!」

「うわー、もうティッシュの意味ない。でも帰らないからね。剣城と一緒に居たいもん。あ、京介って呼んだ方がいい?」

「………」


ばしゃっ。
え、何の音?
私が気付くのには少し、いやかなり遅かったようだ。

…苦い。これ、コーヒー?
京介の手を見ると、私にコーヒー缶の飲み口が向けられていて、コーヒーを顔にぶっかけられた事が解った。

きょ、京介の飲んだコーヒー!京介の飲みかけコーヒーを顔にぶっかけられてしまった!
これなら苦くても平気だよ!

もう、京介って呼ばれるのに照れてるの?そんな照れ隠しをする京介にはお仕置きします。


「チュッパヂャップスの刑ー!」

「んぐっ!」


ふふ、コーヒー好きな京介が甘いものも好きって事は把握済みなんだからね!
チョコ味だから、結構甘いと思う。え、ちょ、顔ちょっと綻んでるよ。


私は、やっとお顔を拭こうと鞄からハンカチを出した。

…あっ!今日親戚が来るから早めに帰らなきゃいけなかったんだあああ!!
なんでこんな日に限って!ちくしょう!


「剣城!今日早めに帰らなきゃいけないから、もう帰るね!」

「…待て」

「な―――」


“何?”
そう言おうと思ったら、チョコの甘みが唇に付いた。

唇が、熱い。
掴まれた肩も、熱い。


「また来いよ」


もうコーヒーの苦味なんて無いのに、コーヒーの苦みと飴のチョコの甘みが混じったブラックチョコレートの味がした。





(まだ熱い)
(…明日どうやって顔あわせよう)





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