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ほう。
私は本を借りに来た人物を見上げ、思わず息をついた。


『今月だけでもう30冊……』
「アーン?」
『いえ、なんでも』


跡部景吾、この学校の3年生で生徒会長、テニス部部長もやっておられる方だ。
この学校に入って2年になる私は、今年初めて図書委員になった。

また、洋書……。

全く本を読まない私が図書委員になった経緯は、ご察しの通り。風邪で休んでた次の日、みんなやりたがらなかった委員会に自然と決定してしまっていたのだ。

授業で少しだけかじったドイツ語が並ぶタイトルは、それでもよくわからないが、きっとこの人が読むんだ。難しいに違いない。
っていうかドイツ語を読む中学生ってどうよ……そもそもなんで中学生の図書室にドイツ語の本が入ってるんだよ……。まぁ、この学校だからあってもおかしくないのか。


「おい
『はい?』
「まだか」
『あ、すいません。10月11日返却です』
「わかった」


そう言った跡部サマはふっと笑って、近くの椅子へ腰かけた。
いつもならすぐに帰るのに。
ぱらりとページをめくれば、びっしりと上から下までドイツ語。くらくらとしてきちゃいそうなくらいに難しそうな本。そんな本を読みながら、一般生徒も座っている椅子に腰かけているのが、なんだか滑稽に見えた。この人はなんだかふかふかで上等な椅子に座っているイメージがあるから余計に。すわり心地悪くないんだろうか。


「なんだ」


本から顔も上げずに、跡部サマはそう言った。
急いで首を振るも、跡部サマは見のがしてくれないらしい。集中できないという目線をこちらに向けて本を静かに閉じた。


「俺の顔がそんなに珍しいか」


珍しいわけない。この学校のどんなとこにいたって見分けられるくらいに。いつだってその顔を見ているくらいに、珍しくなんかない。


「梓月か。いつも当番なんだな」


びっくりした。なんで跡部サマは私の名前なんか知ってるんだろう。
そんな思いが伝わったのか、全校生徒の顔と名前とクラスなんざ把握済みなんだよ、と言われた。
人間じゃないよそれ。どんな記憶力してんだこのお人は。


『……水曜日と土曜日は当番なんです』


やっと言えた言葉は、自分でも聞いててそっけなく感じた。
少しだけ声が震えた。


「水曜と土曜……ね」


一瞬だけ思案した後、何かに気づいたように跡部サマの口角がゆっくりと上がる。
なんでこんなに綺麗に笑えるんだろう。
私はそんな跡部サマにぎこちない笑みを返した(本当に返せているかは謎)。


「ちょうど、オフだ」

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