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「ねぇ、俺さ、焼肉食いたかったんだけど」


赤也はうらめしそうに私を見上げた。私はその視線を受け止めつつ、右に流す。


『これだって、焼いてるお肉でしょ。焼肉じゃん』


さっきから取ろうとしているからあげが、箸の間に挟まってくれない。
仕方がないのでからあげの近くにあった千切りのキャベツに手を伸ばそうとしたら、水蒸気のたまった蓋に手があたって、私の太ももにびしゃりと落ちて濡れた。慌てる私の顔面に、赤也はタオルを投げつけて、馬鹿じゃん、と呟く。


「焼肉食いたい」


太ももをふいている間に、赤也は私のからあげを奪っていく。
ああ、それ一番大きかったやつなのに。
赤也を見上げれば、そんなことだろうと思った、なんて言う。


『今度、奢るからさ』


機嫌直してよ。
赤也は私の千切りキャベツの上に、自分の千切りキャベツをのせた。ご丁寧に赤也の分のドレッシングまでかけてくれた。


「とか言って、どうせ今日みたいに忘れるんだろ」


冷めかけたご飯をからあげと一緒にかきこみながら、私を見ずに赤也は言う。
別に忘れてたわけじゃないんだけどなぁ。
なんて言葉は、どうせ赤也に言っても信じてもらえないだろう。仕事帰りの時間でも開いていた近くのほくほく亭のお弁当で我慢しろなんていう私の言葉なんか。
黙って、赤也の顔を見ずに、もくもくと残りのご飯を口に放り込んで、ぬるくなった麦茶を飲みほした。


「あー、寿司も食いたくなってきた」


わざとらしい台詞と、私に向けられる視線を受け止めて、私は小さく頷いた。
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