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ゆっくりと歩き出した背中は、いつにもまして大きく見えた。

真田弦一郎。そう呟いた声は、葉のざわめきにかき消されてしまった。
でも、それでよかったんだと思う。
私はもう、彼と友達でいるのをやめたのだから。
今日ばかりは、頬をうっすらと染めて、憎まれ口をたたきながら、年相応の笑顔を浮かべる弦一郎。私はそれを、遠い遠い2階の窓から見つめているだけ。
友達を望む彼と、それを望まない私。当然の距離だった。


「なーにしてんじゃ」
『……なんだ、仁王か』
「ぴーよ」


なんでお前は下にいないんだ、と聞けば、サボタージュと一言。お祝いにサボタージュも何もないだろ。そう言えば口角を上げられた。やっぱり仁王苦手。意味わからんし。


「で?なに見とったん」
『別に』
「エリカ様?」
『古いわ』
「いかんの?」
『別にいかんことないけど』
「じゃあ行けば」
『そっちの行かん?』
「うん」
『行かない』
「あっそ」


聞いてきたのは仁王のくせに、興味なさげに一蹴された。なんか疲れてきたし、クラスに戻ろう。いくら見つめていたって、彼との距離は縮まらないわけだし、ね。


「ええの?」
『しょうがないじゃない』
「……そんぐらいの覚悟しかないっていうことぜよ」
『もうそれでいいよ……疲れた、戻る』


梓月の意気地なし。
その通りだよ。仁王の言う通り意気地なしだよ。彼と友達であることをやめてしまった私は、もう彼に話しかける勇気なんてないのだから。一度振られたぐらいでへこたれてしまうくらいの覚悟しか持ち合わせてなかったのだから。
仁王は私の背中に向かって、ぴよっと小さく笑った。

いろんな人に囲まれながら、弦一郎はゆっくりと歩を進める。その背中はやはり、大きく見えた。いろんな想いを背負うために、弦一郎の背中は大きいのだ。
私の想いもそこにあるのだろうか。私の想いも背負って、彼は歩き続けるのだろうか。私はなんて小さな背中なんだろう。

恥ずかしくなった。
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