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「えっ!何これ!」


ジロくんと一緒に住み始めて1年。
我が家の朝と共にやってきた一つの大きなソファ。普段は私が出るインターホンも、今日は寝ているふりをしてジロくんに出てもらえば、先ほどの大きな声。私はベッドの中で、にししと笑って、毛布にくるまった。


「てん!ね!起きて起きて!見てよこれ!」
『何何、ジロくん』
「ほら!これ!ソファ!おっきなソファ!」
『そふぁー?』


寝ぼけ顔で、思いっきり間抜けな声で、とぼけてみせれば、ジロくんは私をがくがくと揺さぶった。目を煌々と輝かせるジロくんは、あれあれと言って、部屋の中央に置かれた大きなソファを指差した。あ、この部屋だと予想以上におっきかったかも。そんなことを冷静に考えながら、ジロくんの様子ににんまりした。彼のことだからきっと今日が誕生日だなんて忘れてるはず。
ドッキリ大成功じゃん!


「っていうかなんで!?なんでソファ来たんだC!?」
『なんでだろうねぇ』
「もーなんでそんなに呑気なのてん!」
『の、呑気じゃないよ!めちゃくちゃ喜んでるよ!めちゃくちゃ!ほら!ほら!』
「あ、え、うん」
『なんでそこでちょっと引いたの』


危ない危ない、怪しまれるところだった。まだ言うわけにはいかない。このドッキリは私からのプレゼントということがわかって初めて成功なのだから。


「やばい!ふっかふかだC!でっかくて!ふっかふか!」
『おお……これは想像いじょ……げふん』
「でも本当になんでソファ来たんだC……」
『誰宛てだったの?』
「俺」


首を捻るジロくん。ふふふ。このあと来るはずになっているソファクッションには、私からジロくんへのお手紙がついているのだ。早く来ないかなぁ。


「なんで今日……あ、今日って5月5日……俺の誕生日じゃん!」
『わ!ホントじゃん!』
「ああ!もしかして!これ!跡部がくれたのかな!」
『えっ』
「絶対そうだ!俺小さい時からおっきいソファ欲しいって言ってたからもしかしたら誕生日プレゼントに買ってくれたのかもしんない!」
『ちょ、ジロくんっ』
「うっわー!まじまじすっげーよ跡部!俺今超嬉Cもん!電話しよ!」
『じ、ジロくん待って』
「あ、もしもし跡部?今どこいんの?ドイツ!?すっげー!」


うわあうわあ。跡部くん全然関係ないのに!止める暇もなく、ジロくんは跡部くんに電話をしてしまった。これは予想外すぎる!ソファクッション早く!!と思っていた時に、インターホンが鳴り響いた。


「そう、今日俺誕生日……うんうん、いやいやいや!知ってたんでしょー?」


ジロくんは跡部くんと電話をしながら、先ほどと同じように玄関に向かった。


「跡部でしょ、ソファ……何とぼけてんだC……おっきくてふっかふかのソファ、うん、えっ、うん。あ、すいません、ハンコこれでいいですか。あ、え、ええ」


だんだんと聞こえなくなるジロくんの声。どうしたんだろう、と玄関を覗きこめば、ぺたりと座り込んだジロくんを見つけた。え!どうしたの何事!ジロくんは受け取ったらしいソファクッションをぎゅうっと抱きしめて、なんだか泣きそうな、それでいてちょっと怒った顔をして、私の方へ振り向いた。


「ソファ、てんなの?」
『……』
「誕生日で買ってくれたの?」
『……』
「なんで言ってくれなかったんだC」
『サプライズ』
「俺、舞い上がって、それで、跡部がくれたと思って、てんごめん……」


涙目になってクッションに顔を埋めたジロくん。あはは、やっぱり愛しいなぁ。そんなに罪悪感感じなくていいのにね。でも、私が見たかったのはジロくんの泣いてる顔じゃなくて笑顔だから。


『ねぇ、ジロくん』
「ん」
『せっかくだから、ジロくんのために買ったソファで話そう』
「座る資格なんてない」
『なんでそんなこと言うの。私はジロくんの喜ぶ顔が見たくて、プレゼント用意したんだよ』
「てん」
『ね、だからジロくん、笑って?』


ゆっくりと顔をあげたジロくんは、私に飛びついた。勢いでソファに倒れると、ジロくんは私の上に覆いかぶさりながら、両頬を挟み込んでこつんとおでこをくっつけた。目の前のジロくんは、それはそれは満面の笑みで、ありがとうと言った。いえいえ、こちらこそ、いつも素敵な笑顔と幸せをありがとう、ジロくん。
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