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3年2組の大石くんは、みんなに優しくて、頭もよくて、テニス部でも頑張っていて、私のあこがれの人。でも一度だって彼とお話したことはないし、同じクラスにだってなったことがない。
テニス部で大石くんとゴールデンペアだという菊丸くんや、天才と呼ばれる不二くんとは同じクラスなのになぁ。結局一緒のクラスになれなかったなぁ……残念。と思う気持ちが半分。そして残りの半分が、ちょっとよかったなぁと思う気持ちがあるのだ。


「英二!弁当、一緒に食わないか?」


ほら、来た。
お昼休みになって、大石くんは必ずこのクラスにあらわれる。菊丸くんとご飯を食べるためにだ。いつもはこのあと、屋上へと向かう二人。私はそのひと時の間だけ、大石くんを堪能できるんだ。


「大石、今日は僕も一緒に食べてもいいかな」
「不二じゃないか」
「ね、いいでしょ大石?」
「俺は別にかまわないよ」
「じゃあ、ここで、机をくっつけて食べよう」


ところがどっこい。
どうしたことか隣の席の不二くんが、急にゴールデンペアの二人と一緒に食べようと言い出したのだ。彼はいつもお昼時になると、この場で食べたり、どこかふらりといなくなるのに。今日もそんな気まぐれだろうか。
私にとっては大石くんをずっと見れるから万々歳だけれどね!不二くんナイス!
おにぎりをほおばりながらちらりと隣の席を見たら、何故か無駄に不二くんと目があった、気がする。いやいやまさか、気のせいだよね。


そんなこんなで、盛り上がる隣の会話をしれっと盗み聞きしていると、なんと今日は大石くんの誕生日らしい。
と、いかにも今初めて聞きましたよー感を出したけれど、そんなものはとっくの昔に知っていて、こっそりプレゼントも用意して、しれっと彼の靴箱に入れておこうかと思っていたのだ。どうせ大石くんは私のことなんか知らないんだし、それにみんな毎年やっている人はやっていることなので、それにまぎれちゃおうっていう作戦だ。流石に人気な大石くんに面と向かって渡す勇気などないし。


「梓月さん、今日大石の誕生日なんだって」


うひょえぇ。
急に不二くんに声をかけられて、口から変な声が出た。不二くんは私を見て、にこにこ笑っている。もちろん菊丸くんも、さらには大石くんまで私を見た。


「僕の隣の席の梓月てんさんだよ、大石」
「へぇ、そうなんだ。不二がお世話になってます」
「ちょっと大石!なんかそれお母さんみたいじゃん!」
「お母さんって!」
「梓月さんが大石に言いたいことあるみたい」
『ええっ!』


不二くんの振りにおろおろしながら、とりあえず声を振り絞って、誕生日おめでとう、と伝えた。大石くんもはにかみながら、ありがとう梓月さん、と言ってくれた。嬉しい、嬉しいけど、恐ろしや不二周助……。
心臓がばくばくしながら、それ以降は何事もなく、不二くん菊丸くん大石くんは談笑を楽しんでいる。はあ、もうびっくりしたよ。いきなり私にふってくるんだもん。不二くん怖すぎなんだけど。あのにこにこ顔も意味深すぎて、私もしかしてからかわれているんじゃないかっていう不安にかられているよ。いやいや、それは考えすぎだよね。うん、そうに決まってる。
時計をちらりと見上げると、もうすぐお昼休みも終わる時間だった。はああ。今日の大石くんタイムも終わりかぁ。一つ大人になった大石くんをこんなにも長時間見れるだなんて思ってなかったから、まぁ、それなりに満足だから、我慢だよね。


「じゃあ、そろそろ自分の教室に戻るよ」


大石くんが立ちあがった。
菊丸くんも不二くんも、手を振りながらそんな彼を見送る。
終わっちゃった。また明日だなぁ、なんてそんなことを思っていた時に、また急に不二くんは、あっと声をあげた。なんなんだ、とみんな見つめると、不二くんは私の方へくるりと顔をむけた。


「梓月さん、大石に何か渡したいものがあるんでしょう」


うひょえぇ。
また、また変な声が出ちゃった!大石くんが見てるのに!
驚いた顔をしながら、私に、本当かい?と聞いてくる。私は不二くんの顔を見、大石くんの顔を見、菊丸くんの顔を見、また不二くんの顔を見た。にこにこと笑う顔は本当に怖かった。
私はおずおずと鞄の中から、本当ならば靴箱の中に入れるはずだったプレゼントを取り出して、どうにでもなれ、なんて頭の中で叫びながら大石くんに押し付けた。


「……これ、テニスのグリップ?」
『は、はい、あの、使って、ください……』
「いいのかい?」
『あ、はい』
「うわあ、嬉しいなぁ!ありがたく使わせてもらうよ!」


それじゃあまた、なんて言いながら大石くんは教室から出て行った。
うわあうわあ。渡しちゃった、手渡しちゃった。ばくばくと鳴る心臓に手をあてながら、顔をあげると、目の前にはあの不二くん、そして何がなんだかわかっていない様子の菊丸くん。不二くんはにこにこしながら、よかったね、なんて言ってくる。
恋のキューピッドなんだかなんなんだか。
余計なお世話だよ、って小さくつぶやいたら、不二くんはおかしそうに笑った。
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