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「梓月さん」


観月くんはいつもいい匂いがする。
香水の香りじゃない、洗剤とぽかぽかとした太陽の匂い。それが観月くんの匂い。


「どうしたんですか?」
『えっ!いや!別に匂いを嗅いでるとかそんなんじゃないよ!?』
「……匂い?何の話をしているんです?」
『え』
「僕はあなたの体調を聞いているんです」


体調?私はいつも通り元気だし、なんともないんだけれど。寧ろいつもよりも頭に血がのぼって、はしゃぎまわりたいくらいで。
あ……れ?
ぐにゃりと視界が歪んで……、てんはめのまえがまっくらになった!


あ、いい匂いがする。
遠い遠いどこかで、知っている匂いがする。なんだか安心する匂いに、手を伸ばすと、温かいものが触れた。そこではっと目覚めると、目の前には真っ白な天井が見えた。まだぐらぐらとする視界に、私はようやく熱があることを悟ったのだ。


「おや、起きましたか」


触れていたものが、私の手を握り返し、目の前に広がっていた天井は、ある人物の顔でふさがれた。


『あれ、観月くん』
「あれ、じゃないですよ。いきなり倒れて、驚いたこっちの身にもなってください」
『ごめんなさい』
「まぁ、大事がなくてよかったです」


ふっと笑んだ観月くんは、私のおでこに触れた。


「まだ熱はありそうですね……38度もあってよく学校に来れたものです」


38度もあったのか。
なんで気づかないのよ私。鈍感すぎでしょ。でも、あれ、なんで観月くん私の体温知ってるの。


「なんですかその顔、あっ!ち、違いますよ!?体温計ったのは先生ですからね!?」
『なぁんだ』
「なんでそこで残念みたいな顔をするんですか……」
『だって実際残念だもの』


ぽかんとした顔をした観月くん。初めて見た顔ににやりと笑えば、目を塞がれてしまった。あー残念!もっと観月くんの顔、見てたかったのに。まっかっかな観月くんの顔を。


「もうあなたは寝てください」
『観月くん』
「次目を覚ましても、ちゃんとここにいますから。安心しなさい」


すん、と鼻で息を吸い込むと、私の鼻腔から肺にそして全身に、観月くんの匂いが満ちていく。
ああ、いい匂い。頭ぐらぐらするけど、ぐっすり眠れそう。
おやすみなさい、観月くん。
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