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今日は俺の誕生日。

いつもより早めに目覚めた朝はなんだかエクスタシーや。
髪にも寝癖ついとらんかったし、朝ごはんも俺の好きなおかずやったし、快晴やったし、今日はきっとついとるはず。せやから、とびっきりのサプライズが俺を待っていることすら分かりきってることやった。
それやのに。


『あ、白石おめでとさん』
「梓月」
『今日誕生日やろ?』
「え、あ……おん」
『どないしたん、そんな呆けた表情で。私何かおかしなこと言うた?』
「いや?あっとる。あっとるで、おおきに」


サプライズはどこにいったんや。
いやいや去年、一昨年までサプライズやっててくれたやん。なんで今年はないん?いや、これが逆にサプライズなんか?そうなんか!?


『あ、今年なんも考えてなかったわ』


その可能性すら否定された!
あとは何事もなかったように自分のクラスに入っていく梓月の後姿を見つめながら、俺は茫然と立ち尽くしていた。
ないわ。ほんまにないわ。今日めっちゃ朝からエクスタシーやったやん。絶対いいことおこる予兆やったやん。なんやこれ。めっちゃ残念にもほどあるやろ。
その日一日なんだか体に力が入らず、ぽけーっとしとる合間にあっちゅーまに部活の時間がやってきた。
のろのろと歩きながら、部室まで行くと、何かがおかしい。
人の声がいっさいしない。
そろそろ部活始めとかなあかん時間なのに、レギュラー後輩共に姿が見えない。何事や。おそるおそる部室をあけてみれば、そこはもぬけのからやった。あれ、今日部活休みにしとったっけ。いや、そんなはずはない。だって俺部長やもん。部長の俺が身に覚えないんやからその可能性はない。

……なぁ、そうやろ?梓月!

振り返ると先ほどまで人気のなかったはずのコートに、梓月が一人立っていた。
にやり、と笑った顔はやはり何かたくらんでいたようで、俺には朝会うた時の言動すべてがサプライズの布石だったことがわかったのだ。


『ちっ、ついにばれたか』
「俺を騙そうっちゅー方が無駄な思考や」
『侮れませんなぁ、部長さん?』
「部員全員どこに隠したん」
『さぁ、どこでしょうね?』
「しっかし、今年もこないに手の込んだことを。去年は登校早々全校生徒パイ投げやったし、一昨年なんかは巨大クラッカーから部員全員飛び出てくるし」
『愛にあふれとるやろ?』
「せやな」
『つっこめよ!』
「で?今年はなんなん?」
『今年?今年はなぁ……』


すっとあげられた梓月の腕、そしてまるでどこぞの財閥ぼっちゃんのように高らかに鳴り響いた指ぱっちん。同時にそこらの茂みや木々の後ろから駆けてくる部員全員に俺はもみくちゃにされた。あちらこちらからおめでとうの声が上がる中、もみくちゃにされた俺は、またもや呆然としてしまったが、ここで気を抜いてはいけない。
第二陣はなんだ、と身構えれば、急に視界が開いた。にやにやと笑ってる部員が道を開く。
その先には梓月がいて、手にはいびつなケーキがのっていた。
なんや、これ。
ちょっとだけ照れくさそうに笑う梓月は俺にケーキを差し出して、誕生日おめでとう、と言った。
……うっ……わー。
手作りだと言う。梓月の手作りケーキ。
なんやねんこれ、中学最後の誕生日で、まさかこないなもんもらうなんて。形はいびつやけど、なんやこれまでの梓月たちと過した中学生活思い出して、俺はわんわん泣いた。

あーあ、やっぱ今日はついとったなぁ、俺。
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