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「てんちゃん、タバコくさい」
またあくつの所?と言われれば頷くしかない。私を後ろから抱きしめたキヨは小さなため息をついた。
「あーあ、てんちゃんはいつ俺に振り向いてくれるんだろう」
『何言ってるの、私はいつだってキヨを見てるよ?』
「嘘ばっかり」
あなたには言われたくないわ、なんて笑えば、キヨも笑った。
タバコくさいのも、またあくつの所に行ってたのも、あなたのせいだって知っていながら。キヨはまるで気づいてなんかいないよ、と言わんばかりに、こういう時だけ私を引き寄せる。単純に彼に甘えられるのは嬉しいけれど、中にあるものはどろどろと汚くて複雑で、私は苦しくなる。キヨにしみついた甘い香水の香りが私にまでうつってしまいそうで怖くなる。
だから私はあくつの所に行くのだ。
「俺、てんちゃんのことだーいすき」
それはきっと私があなたをいついかなる時でも受け入れるからでしょう?
「てんちゃんは俺のこと好き?」
そんな質問、ただあなたの逃げ場を確認してるだけにすぎないんでしょう?YESしか答えがないことを知った上での問いに、私が傷ついてることも知っていながら。
『うん、大好きだよ』
必然的な言葉が紡がれた唇にキヨは嬉しそうに口づける。
きっと、そのあなたの唇も、いくつもの嘘で塗り固められているのでしょうね。