▼ ▼ ▼


「梓月」
『遠山先輩』


街で偶然見かけた遠山先輩は、何故かスーツだった。
今は春休み、先輩も大学4年生になり……あ、そっか。先輩就活生なんだっけ。先輩が就活生というイメージがあまりにも無さ過ぎて、うっかりしていた。


「どないしたん、梓月。買い物?」
『ええ、増税しましたけど』
「ぞうぜい?何それぞうすいの仲間?」


本当にこの人就活生で大丈夫か。
頭にはてなマークをつけたまま、にこにこと私の呆れ顔を覗く遠山先輩は相変わらず遠山先輩だった。


『先輩は就活ですか?』
「せやねん。今日も一個面接受けてきたわー」


面接はええねんけどな、筆記は苦手。なんてぺろっと舌をのぞかせた。面接官を前にしても、堂々としゃべる先輩が想像できて、私はこっそり笑った。
いつもと変わらない先輩。なんだか安心した。
最初に見たとき、見慣れないスーツ姿があまりにも似合いすぎて、一回見ただけじゃわからなかった。自分の知らない人になってしまったのかと思った。
だから、こうやって話しかけた時にいつもみたいに笑ってくれてうれしかった。この顔は、いつもの先輩の顔。


『あ、先輩』
「ん?」
『スーツ姿かっこいいですよ』
「ほんまに!?」
『エイプリルフールです』
「うわーっ」
『誕生日おめでとうございます』
「……!」


少し目をまるまるとさせて、そのあと、目玉がなくなるまで目を細めて、笑った先輩は、私が一番大好きな顔だった。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -