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ああ、危ない。
もう見てられない。
世話焼き女でない私ですらそう思ってしまうほど、彼は揺れていた。
ここは電車の中。少し込み合っている。うちの学校の1年生だろうか?身長が私よりもまだ少し小さい、目の前に立つ男子が手すりにつかまりながら、こくんこくんと頭を揺らす度に、私はひやひやとしている。ああ、今にも頭を打ってしまいそうだ。


「んぎゃっ」


言わんこっちゃない!
額をぶつけた彼は、何事が唸りながら、手を額に持っていく。しかし、暫くした後に、そのままの状態でまた、こくんこくんと揺れだした。
えええ、そんな、まさか、また寝るだなんて。


「ぐぎゃっ」


ほら!また!
もう一度手すりに頭をぶつけた彼。これまた寝るんじゃないの?何度も何度も額をぶつける瞬間を見続けるのはいたたまれなさすぎる。私は思い切って、彼の体の向きを私の方に向けて、彼のかわりに私が手すりを掴む。片方の手は、彼の手というか、腕を掴む。
よし、これで彼はもう額を何度もぶつけなくてすむね。よかったよかった。はぁあ。と息を吐き出して、ぱちり。目があった。
誰と?
そう、目の前の彼と。
ぱちぱちと何度も瞬く目は、私の存在を完全に捉えていた。
うわああああああああやってしまったやってしまった!そんなそんな痴漢とかではないんです決してそんな!誓ってそんなことはないんです!なんてことを言えないこの場がうらめしい。
私を捉えて離さない彼の目は、彼の腕を掴む手を見、そして手すりを掴む私の手を見て、ふうん、と納得気に頷いて、もう一度私を捉える。私も、はっとして、急いで彼の腕を離した。が、その手は、今度は彼の手によって掴まれてしまった。
ああ、うそでしょ、私痴漢で捕まるのかしら。私の人生、ここで、終わってしまうのか。終わった……終わった……。
だが、いつまでたっても彼から痴漢を告げる声も、痴漢を匂わせるアナウンスも、ざわめく乗客の様子も確認できなかった。周りを見渡して、先ほどと変わらない様子にびっくりして、彼をまた見ると、にっと、口角を上げた彼と目があった。


「守ってくれてありがと、せーんぱい?」


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