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『あ、そうだ、仁王くん、仁王くぶふっ』


仁王くんに聞きたいことがあって、ふりむくと、それとほぼ同時に、仁王くんの両手で頬を挟まれてしまった。


「ぶっさいく」

『ひゃにひょー!?』

「え?なんて?」

『ひゃなひて!!』

「ん?」


わざとらしくどこふく風で答えているけど、その口元はにやにやと笑っていて、すんごいむかつく。一生懸命仁王くんの手を外そうとするけれど、やっと離れたと思えば、また磁石のように私の頬にひっつく。そしてあろうことか、そのほっぺをびよんびよんと伸ばすのである。
仁王くんは女子の敵だな、と思いました。


「よう伸びる伸びる」


なすががままにしていれば、飽きたのか、つまらなそうな顔をして、ようやく離してくれた。
ああ、これでやっと要件が言える。


『あのね、仁王くんぶっ』


と思ったのもつかのま、にやり。そう笑って仁王くんはまた私の頬を両手で挟み込んだ。
こいつペテンにかけやがったぞ!
学習した私は無反応を決め込めば、少しだけびよんびよんと伸ばして、手を離してくれた。だけど最後ちょっとつねりぎみに離されたから痛い。


「で?」

『で?ってあのねぇ……』

「なんか言いたいことあるんじゃろ」

『……そう、えっと、明日の実験の話なんだけど』

「なーんじゃ」

『え?』

「そんなことか、つまらん」


ふいっと顔を背けて、そのまま私の話なんて聞かないというそぶりを見せる。つまらないとか言われてもさ、私にとっては結構重要なお話なんだけどなぁ。


『ね、だからさ、明日の実験の記録が』

「ぷい」

『いやいや』

「ぷーり」

『ぷりって何……』


そっぽを向いたまま、仁王くんは私の話に聞く耳も立てない。
もうしょうがないな。他の班の子に聞こう。別に仁王くんじゃなくてもいいんだし。
そう思って、席を立った。
がしかし、それは適わなかった。
仁王くんにスカートのウエスト部分をつかまれたからだ。
ちょっとちょっと。脱げるって。


「で、要件は?」

『つまらないって言ったじゃない』

「だからって答えんとは言うとらんじゃろ」

『じゃあ……明日の実験のことなんだけど』

「そうじゃなくて」

『はい?なんなの?』

「そういうこと聞かれたいわけじゃない」

『?』

「俺は、梓月に、私の事好きかって聞かれたかっただけじゃもん」

『はああああ!?何それ!』

「何それってこともないじゃろ」

『何、それ……』

「だって、そんな話、俺じゃなくてもいい話なんやき……なぁ?」


さっきからくるくると変わる表情は、最終的にあのいつものにやっと意地悪な笑みだった。
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