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「ほ、本当によかったぁ〜」


延々と泣き続ける長太郎に私はほとほと困り果ててしまった。


『なんで長太郎が泣いて喜んでんのよ』
「だって梓月に彼氏ができたっていうから!」
『それどういう意味』


私にはできないとでも思っていたのか!なんと失礼なやつだ!そういう意味を込めて長太郎を見つめれば、それがわかったのかよくわからないけれど、うわああとか言いながら手で顔を覆った。


「貰い手がなかったら俺が貰おうとまで思ってたのに!そんな!梓月に!彼氏が!」
『ちょ、ちょっと、最初のなんなのよ』
「いや梓月に振り回されても捨てないのは俺くらいでしょう?」


なんだそれ。長太郎はドМか何かか。ていうか、振り回すだの捨てるだの、そんなに私の性格へそ曲がりなのか!ほんっとうに失礼だなこいつ!


『長太郎が私のことどう思ってるかよくわかったわ……』


そう言えば、長太郎は、とぼけ顔で大変憎らしかった。


はーあ。
私に彼氏ができたなんてさ。
そんなの嘘なのに、ね。


長太郎とは幼稚舎からの付き合いで、なんだかんだと流れ流れて、大学ですらも一緒だから幼馴染もいいところである。私はいつだって、そんな長くて大きい壁を一歩乗り越えたいと思っていたけれど、長太郎は知らんふり。だから今日、こうやって、彼氏ができたっていう嘘をついた。嘘をついたのはいいけれど、長太郎が泣いて喜ぶという想像もしてなかった状況。やっぱり長太郎は私の事を幼馴染としか見てないんだなぁってことがよくわかっちゃった。


『じゃあ、それだけだから』
「それだけ?」
『彼氏が出来た、それだけを言いに来ただけだから教室戻る』
「ねぇ」
『何?』
「彼氏って誰なの」


さっきまでと違う、ワントーン低めの声が、踵を返した私の背後から聞こえて、振り向けば、すごく真面目な顔をした長太郎の顔が目の前にあった。


「ねぇ、誰?」
『なんでそんなことまで言わなきゃいけないの』
「俺は梓月の幼馴染だろ」
『幼馴染に言う義務ないじゃん』
「なんだよそれ」
『そのまんまだよ、ただの幼馴染なんでしょう?そんなことまで言う必要ない』
「それ本気で言ってるの?」


長太郎が、私の手首を掴んで、その力があまりにも強くて思わず顔をしかめた。
なにこれ。さっきまで私に彼氏ができて泣いて喜んでたくせに。私の事、ただの幼馴染だと言ったくせに。


「いつも一緒にいただろ!」
『だからなんだっていうのよ』
「だから!」


ぽろり、長太郎の目からこぼれた涙に、私はぎょっとした。大粒の涙が、次々と、彼の頬を濡らして落ちていく。


「そいつに捨てられたら俺がもらうから!」
『……』


いっぺん殴った方がいいのかなんなのか。私はたいそう呆れてしまって、長い長いため息をついた。
うれしくないのかと聞かれれば、うれしい。かも、しれない。
私は長太郎の手を振り払って、それに少し傷ついたような顔をした長太郎のネクタイを掴んで引っ張った。


『ぜーんぶ、ウソ』


涙目できょとんとする長太郎に、私はふふんと鼻で笑った。捨てられる前提で話していた長太郎には、いい罰だ。
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