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ぴんぽーん。


一次試験に向けて自宅学習をしていると、突然インターホンがなった。誰だ、こんな時間に。時計は18時過ぎをさしていた。
両親は仕事だし、弟も部活で遅くなるとか言ってたし、家には私しかいなくて、仕方なく重い腰を上げて、玄関をあけた。


「てんー鬼が来たでー」


静かに玄関のドアを閉めた。


「な、なんで!?なんで閉めるん!?てん冷たない!?」
『だって鬼は外じゃないですか』
「せやけど……いや、そうやけど、でもちゃうねん!」
『何が違うんですか』
「ワイはてんと豆まきをしに来ただけやって」
『鬼はー外ー』
「あーけーてー!」


というわけで、そろそろ近所迷惑になりそうだったので、鬼を家に入れてあげた。なんて優しい家なんだろう。これで福来なかったら呪う。


「ほら、てんのためにお豆さん買うてきてん!」
『はぁ』
「一次試験もうすぐやろ?一緒に鬼さん追い払えばええやん!」
『二人でするんですか』
「他に誰かおるん?」
『……いないですけど』
「じゃあ二人やん!ワイが鬼さんやったるから遠慮なくぶつけて」
『えい』
「いたっ!痛い!いきなり!?」
『遠慮なくって言ったの先輩』
「せやけど!……まぁ、ええわ、てんの投げたお豆さん全部受け取るでー!」
『受け取ったら意味がないような』


私が投げる複数の豆を、遠山先輩は器用にとっては口に放り込む。中学生の時に合宿かなんかで身に着けた技だとかなんとか言ってたけど、先輩テニス部だよね?ちょっと意味が分からないけれど、なんだか楽しくなってきた。先輩も先輩でどんどん来いみたいな自信満々の顔をしてるし。夢中になって投げてたら、いつの間にか準備されていた豆は全部先輩の胃袋の中だった。


「はーうまいし楽しかった!」
『全部食べてどうするんですか!』
「あ、大丈夫大丈夫、てんの分もあるでー」
『……それはありがとうございます』


リビングの椅子に座って、遠山先輩に差し出された豆をもそもそ食べていると、なんだか視線を感じて見上げれば、遠山先輩がにこにことしながら私を見ていた。睨み上げても効果はなくて、じいっと見つめられる。耐えきれなくて、なんですかと問えば、なーんでも、なんて言われてはぐらかされる。気にせず食べよう、そう意気込んでも、やっぱり気になるものは気になってしまう。


『何ですか、なんかついてます?』
「んーん」
『じゃあ何』
「いやぁ、楽しそうやったなぁって」
『何ですか、それ』
「最近ずっと眉間にしわ寄ってたから心配してたんやけど」
『……』
「今日てんが笑てくれてほんっまに良かった!」
『……そうですか』
「あ、にやけるの我慢しとるー」
『してませんし』


ほっぺたを両手で包まれれば、食いしばってた唇もほどけてしまう。
あーあ、もう、笑っちゃう。
受験のせいで強張っていた体がすとんと力が抜けたような、そんな感じ。


「てんなら、大丈夫やで」


そう言って、私の頭をぽんぽんっとたたく。その手が優しくて、温かくて。
鬼さんはそろそろ帰るわーなんて言う先輩に、ありがとうと小さくてかすっかすな声で言えば、先輩はまたにっこり笑って、私の頭を軽く叩いて帰って行った。


はーあ、なんかわかんないけど、頑張れそう。
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