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『ジロちゃん先輩!』


そう声高に叫べば、学校の門の近くでぼけっと立っているジロちゃん先輩が、私に気づいてくれた。へらり、と笑って目をこするジロちゃん先輩は、朝早くということもあってか特別眠いのかもしれなかった。


『ジロちゃん先輩も合格発表ですか?』
「そうそう、梓月もだっけ?」
『第一志望ですよ!』
「俺もだC」


知っています、だなんて言えるわけもなく、私はジロちゃん先輩の手を引いて門をくぐった。
今日は合格発表の日。
ネットでも結果は見れるけれど、なんだか緊張してきて、ついつい大学までやってきたのだ。すると、憧れのジロちゃん先輩もそこにいて、よりいっそう緊張してきたけど、そんなの顔に出せないくらいに嬉しさの方が勝っていた。
ジロちゃん先輩は浪人生だ。
頭はいいとか聞くのだけれど、大事な場面で寝てしまうらしい。去年のセンターはそれでおとした、とかなんとか。今年は大丈夫だったんですか、と聞けば、合格したら丸井さんが試合してくれると約束したから大丈夫ばっちり起きてたCとのことだった。きっとジロちゃん先輩を心配する跡部先輩たちの差し金だろうな。でも、本当に、大丈夫だったら、先輩と同じ学年になれる。そう思うと丸井さんさまさまだった。


「梓月は自信あんの?」
『べんきょーいっぱいしましたから!』
「そんなにこの学校行きたかったのかよ」


違うよ、先輩と同じ大学に行きたかったんだよ。
そんなこと、言えないけれど。ケラケラ笑うジロちゃん先輩に私も笑ってうなずいた。
いよいよ、番号が掲示される。関係者さんがぞろぞろと紙を持って出てきた。私とジロちゃん先輩はごくりと唾を飲み込んで、張り出されるのを待つ。関係者さんが張り出すのが先か、待ちくたびれたジロちゃん先輩寝るのが先か。そんな具合のじれったさにやきもきしていれば、定刻になったらしい。いっせいに張り出された合格発表の紙にみんな群がって、私はその波に飲み込まれてしまったが、それを見たジロちゃん先輩が手を伸ばして私の手を握ってくれたおかげで、なんとか助かった。
さっきから番号とにらめっこしているジロちゃん先輩が、私に、番号は?と聞いた。私より顔一つ分だけ大きいジロちゃん先輩に自分の番号を託して目をつぶった。
どうかうかっていますように。


「梓月....」


今にも泣きそうな顔で、ジロちゃん先輩が私を見た。ああ、だめだったのか。私もジロちゃん先輩も。がっくりと肩を落とした私に、ジロちゃん先輩は突然抱きついた。


「ウソみてえ!マジマジ!俺たち受かってる!」
『そうですか、また来年頑張りま....って、え!?』
「受かってる!受かってるって!」
『受かってる!?二人とも!?』
「そうだC!マジマジすっげーうれC!」


ひあああああ。口からは変な悲鳴が出て、体の力もすとーんと抜けてふにゃふにゃ。ぺたんとおしりが付く前に、ジロちゃん先輩が支えてくれた。


「俺と梓月同級生だ」
『そうですね、ジロちゃん先輩』
「だからその先輩も今日で無しだC」
『えっ』
「ジロちゃん、せーの?」
『ジロちゃん……先輩』
「もーだめじゃん!俺一浪なのバレバレじゃん!」
『じ、ジロー……さん』
「うーん?……まぁ、Eーや。どーせジロちゃんとしか呼べなくなるんだC」
『それってどういう』
「ほら、てん」
『!』
「今日からまた、よろしく!」
『……はい!』


ジロちゃん先輩……否、ジローさんとの学生生活が再び始まる。
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