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「堪忍なぁ……わざとやで」


そう言って笑ったこの男の顔が忘れられない。目の前には踏みつぶされて粉々に砕かれてしまったキャンディー。綺麗に包装されていたのに、足跡がついてしまっている。それを再び踏んだ足を私へと運び、目の前でぴたりと止まる。


「これ、誰にもろたんやろなぁ?」
『あんたに……あんたには関係ないでしょ』
「それがそうでもないんやなぁ」


だって俺てんのこと好きやし。
そう言って、この男は私の髪を引っ張り上げ、顔を上向かせる。あの憎々しい顔が、少しだけ苦しそうに見えたのは気のせいだったのか。なんとも愉快そうに笑っている。


「俺以外の男からモノ貰うなんて、ええ度胸やんてん」
『別に』
「別に?意味わからんのやけど。なんでてんがそないなこと言えるん?この状況で」


勢いよく髪の毛から手を離されて、私は地面に顔をぶつけた。痛くて、体のあちこちが痛くて、その場にうずくまった。
もう嫌だ。限界だ。
常に監視され、常に介入され、視界に必ずこの男がいる生活なんてもう嫌だ。


『もう……いい加減やめてよ……』
「やめて?ふざけんな、それはこっちのセリフや」
『何で?私が何したっていうのよ、もう意味わかんない。やだ。無理』
「お前が」
『……あんたの顔なんてもう見たくない』
「は」
『消えてよ……』
「な、に、言うとるん?」
『もう私の前に現れないでよ!』
「い、いやや。そんなん……いやや、絶対にいやや!」
『じゃあ、私が、消えるから……お願い』
「いやや、そ、そんな願い聞いてやらん。俺はお前の傍におるって決めたんや」
『お願いだから……』
「お、俺は、お前を守るって、そう決めたんや」


自分の呼吸と彼の呼吸が不協和音になって響く。かみ合わない。私と彼の気持ちがかみ合わない。さっきの表情とはうってかわって、不安に押しつぶされてしまいそうな顔をしたこの男は、私を抱き寄せた。否、しがみついたと言った方が正しいのか。震える手で必死にしがみつきながら、何度も何度も謝り続けられれば、この男を振り払うことなんてできない。そのせいで彼をこんな風にしてしまったのかと思うと、結局この不協和音は続くことしかできないのである。
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