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誰かに見られている気がした。

振り返ってもそこにはいつもの学校の普通の光景しかない。それでもべったりと張り付くような視線は、背中から消えなかった。


隣のクラスの白石くんは中学時代から一緒だが、初めて話したのは去年、同じクラスになってからだった。彼は誰にでも優しく、仲間思いで、クラスを引っ張ってくれる人気者だ。そんな彼に優しくされて舞い上がって好きになってしまう女子も少なくはない。
そして、私もその一人だったからだ。
彼はよく私に部活での悩みや、クラス行事での相談、趣味の話や、恋愛の話もしてくれた。話の最後に必ず、梓月さんだけに、と言って。そんな言葉を言われて嬉しくないわけがない、私は顔を赤らめながら頷いていた。私の周りの女の子との会話でも、彼の話はよく出て来ていたけれど、私だけに、と言われた話は一向に出てくる気配もなく、それすら好きを助長させる材料にしかならなかった。私だけ、私だけに話してくれているんだ。って。


『どうして?』


べったりと張り付いた視線は私の体を縛り上げ、身動きができない。
外では部活生の声が聞こえるはずなのに、私の耳には何も届かない。彼と私だけの空間、それは嬉しいものであったはずなのに、今はこの場から早く逃げ出したいという思いしかなかった。遅すぎたなぁ、そんな風にクチビルが動いたような気がした。


「なぁ、梓月……いや、てん、お前はもう、俺のモンやと自覚すべきやんなぁ?」
『わ、私は、白石くんのものなんかじゃっ』
「その高揚してあこうなった頬、俺を忌み嫌うような目、ほんまそそるわあ」


俺のことを好きで好きでたまらんかった時の顔よりも、な。ぞわりとした。気持ち悪い感触が背中をなぜていくような感覚。


『ねぇ、答えて』
「これ以上何を答えればええん?もう存分にてんへの気持ち答えたやろ」
『私の友達を、家族を、傷つけたのは白石くんなの?』
「どうやろなぁ」
『はぐらかさないで』
「それが、どうかしたん?」


ああ、狂ってる。そして、彼も、自分が狂っていることを知っている。
知っている上で、彼はこれらの行為にまるで否がないと言わんばかりな態度だった。


「もうてんには俺しかおらんねん」


見られていた。白石くんにずっと、見られていたんだ。
少しずつ、少しずつ距離を縮めて、私との間に距離がなくなった時、彼は、それはそれは恍惚とした表情で私の顎をすくった。


「なぁ、俺を嫌って?」
『……っ』
「そんで、ほんまに愛して?」


骨の髄まで。
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