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「……てん」


少し心配そうな声に振り返れば、先ほど帰宅したらしい若が立っていた。


『どうしたの若』
「どうしたは俺のセリフだ。暖房もつけず、こたつにも入らず、何やってんだ」


口を結んで軽く睨み付けてきた若は、近くにおいてあったブランケットを、無造作に私に巻き付ける。さらに暖房のスイッチを急いでつける様子を見て、私が笑えば、何笑ってんだと軽く小突かれた。


「……調子は、どうなんだ?」
『順調だって』
「そうか」


ふふふ。
少し表情が和らいだことに、自分で気づいてないのかしら。お腹をじっと見つめる若の手を取り、さわってみれば、と聞くと、それはそれはすごい勢いで首をふった。


「い、いや、いい」
『何をいまさら』
「……触って、いいのか?」
『何言ってんのよ、若の子どもなんだから』


私の手を借りて、おそるおそるお腹をさする若の顔は、緊張しているのかひきつっていた。
生まれる前から自分の子どもにびくついててどうすんのよ。こんなんじゃ、子どもになめられるんじゃないかしら。ほら、だって、さっきまで静かだったのに、若がお腹に触れたとたん蹴ったし。


「蹴ったぞ!こいつ、親の俺を!」
『だってパパひよっこだもんねー』
「誰がひよっこだ」
『うるさいうるさーい』


うるさいのはお前だ、とかなんとか言って、若は自分が巻いていたマフラーを私にぐるぐると巻きつけた。
こらこら息できないじゃないの。あったかいけど。


「それよりお前、ちゃんとあったかくしてろって先生に言われたんじゃなかったのか?」
『うん』
「だったら、体を冷やすようなことするなよ」
『そうなんだけど、さ』


この子自身のぬくもりを感じていたくて。
お腹をゆっくり撫でながらそう言うと、若は、私の手に自分の手を重ねた。
こんなことめったにしないくせに。
ほどほどにしとけよ。そう言いながら笑った若は、なんだかいつもより頼もしく見えた。


だから安心して生まれて来てね?
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