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「あなたはとても残酷な人ですね」


知っていたのですか、と柳生は問う。ええ、そんなもの最初から知っていましたとも、と私は答える。
私は知っていた。なにもかも。全て。

初めて会ったのはいつだっただろうか。そんなには早くはない。1、2年前だったのではないだろうか。なんだか急に、とてつもない虚無感に襲われた私は、よく屋上でさぼっていた。寝そべって、変化に富む空を眺めていたら、落ち着くような気がして、実際、満たされないまでも、私はその空間に安らぎを覚えていた。
しかし、どうだろう。
突然私に影がさして、その原因となる方を向くと、ひとりの男子生徒が立っていた。
それが柳生だった。
あいにくその時は、柳生のことを知らなかったし、自分の空間を侵す人間に対し、嫌悪感しか抱いていなかった。風紀委員だという彼は、しつこく私に教室に戻るように説教をした。でも私はそんな彼の言葉を受け入れるつもりもなかったし、それに、授業中にこんなところにいる柳生だって、立派なさぼりだ。そんなヤツに言われたって、説得力なんて皆無だろう。
先生に頼まれた、とかなんとか言って、寝そべる私の横にいつもいた。毎日、彼に会った。彼は毎日、屋上に現れ、私に説教する。でも、彼はまた、私の理解者でもあった。柳生は私に無理やり悩みを相談させた。それが、曖昧で、自分ですらよくわからない悩みであっても、彼は放り出さず真剣に聞いた。
おせっかいな人だ。
それだけならいいものの、彼の瞳を見ていると、全て見透かされているような気がして、なんだか怖かった。そして、少なからず、違和感は、確かに、あった。


『そう、私は最初から気づいていたんだよ』


ふとした違和感を。
明らかに本当の彼とは違う何かを。
仕草や息遣い、一つ一つの言葉や瞳の奥にあるもの。
気付いていたけれど、私はずっと黙っていたのだ。彼が、とても満足そうに笑うから。


「残酷な人」


そうもう一度呟いて、柳生はその変装を解いた。
目の前に現れるその男に、私はお互い様、と笑った。
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