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『くにみつ』


なんだ梓月か、と言葉では言わないけれど、そんな顔をしたくにみつに私は近づいた。息は絶え絶え、髪の毛もぼさぼさの私に対し、手塚はひどくきれいに整っていて、すごく滑稽に思えた。
会いたかったのは私だけなのかもしれないって。


『いつ……戻ってきたの』
「昨日だ」
『……そう、なんだ』


何で言ってくれなかったの、教えてくれなかったの。そんな疑問が次々に喉にひっかかる。
あなたにとって私ってその程度だったのかな。だって、大石が私に、手塚が帰ってきたなんて言わなかったら、絶対知らなかった。くにみつのことだもん、また黙って、どこか遠くに行ってしまうんだもの。


「今日は何の日か覚えているか」
『今日?』
「……」


忘れるわけないじゃない。くにみつの誕生日だって、私が忘れるわけないのに。でも私はわざととぼけてみせた。


「俺の、誕生日だ」
『知ってる』


そう言って、こらえきれなくなった涙を、袖で拭っていたら、くにみつにそっと抱き寄せられた。久しぶりに感じた、彼のぬくもりが、私の不安を取り除いていくようで、くにみつにまた会えたことが嬉しいという気持ちがどんどんふくれあがっていく。


「梓月に会いに来た」
『普通逆じゃないの』
「何だっていい、会いたかったから、会いに来ただけだ」


驚かせたかったんだがな、と笑った彼は、どこまでも優しい人だ。
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