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「なぁ、覚えてるか?」


何を、とは聞き返さなかった。宍戸が言わんとしていることがなんとなくわかったからだ。


『そういや、あの時もこんなきれいな夜空だったっけ』
「そうだな」


あの時、全国大会の夜、誰のものともわからないくらいの嗚咽を吸い込んだ空は、やがて暗くなっていき、綺麗な星をちりばめた。
いつもは、ありがとうさえ素直に言えないやつらが、みんなで、感情のままに泣いていた。そんな彼らに気の利いた声もかけられずに、一緒に泣いていた私は、彼らと共に過したマネージャーだった。


きっかけは、宍戸の何気ない一言だったっけ。
昔から弟の世話をしてきた私は、気が利くお人よしと大評判で、それをどこかで聞きつけたのか、たまたま隣の席になった宍戸に、「お前、テニス部のマネージャーやらねぇ?」と初めての会話で言われたのは未だに私の中で笑い話である。


『懐かしいね』
「あれから何年たったんだか」
『みんなどうしてるんだろうね』


夏も終わり、季節は秋に向けて朝晩寒く、私はそっと近くにおいていたカーディガンに手を伸ばした。飛ばされてきたのか、ベランダで落ち葉がかさりと転がる。


「さぁな」
『まぁ、きっと元気にしてるよね』
「そりゃそうだ」


寧ろ元気じゃなきゃ今頃大雨だぜ、なんて言って、宍戸は笑った。私も同じように笑って、小さく頷いた。そうだね、元気じゃない彼らなんて想像つかないし。
会いたくないの、と宍戸に聞けば、首を静かにふった。


「会いたくないわけじゃねぇよ……ただ、今は、お互い頑張りどころなんだよ。それぞれが自分の道に進んで、そして夢をかなえようとしてる。大人になろうとしてんだよ」


邪魔なんてできねぇだろ。
……それもそうだね。あの時大きく見えた背中は、今だって、大きいままだもの。宍戸の背中にもたれかかると、その体温が心地よかった。


「それに」
『それに?』
「俺らはここでつながってんだよ」


私の方を振り向いた宍戸は、その拍子で背中から滑り落ちた私を見て、とんとんと自分の胸を叩いて見せた。


「お前だって……つながってんだろ?」


私の手を握って、そう聞いてきた宍戸は、なんだか泣きそうな顔で、それでも笑っていた。私はただ何度も何度もうなずいた。
あの時の後悔はいつでも私たちの胸にある。
だから。
彼らの、私たちの夏は、未だに終わらない。
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