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「ねぇ、知ってる?宍戸って朝弱いんだC」


数か月前、ジロくんから聞いた話は本当だったらしい。
久しぶりに宍戸に誘われ、ストリートテニスをすることになっていたのだが、こっそり宍戸のお母さんに入れてもらった部屋の中で、大の字になって宍戸は寝ていた。ドキドキとわくわくで早めに来てしまったこともあるけれど、それを差し引いても、この時間にはもう準備していないと明らかな遅刻だ。


『宍戸ー』
「……」
『しーしーどー』
「んー……」


寝返りをうったかと思えば、再び聞こえる寝息。だめだこりゃ。
せっかくお弁当作って来たのにな。カゴの中を一瞥して、宍戸を見おろす。
なんでそんなに幸せそうに寝てるかなぁ。起こすのがなんかしのびないじゃん。荷物を全部床におろして、宍戸の隣に寝そべる。なんかもうテニスって気分でもなくなっちゃったし、朝早かったから眠いし、私も寝ちゃおう。太陽の匂いのするタオルケットを、宍戸から奪って、私は目を閉じた。




「ねぇ、知ってる?梓月って朝弱いんだC」


いつだったか、ジローから聞いた話は本当だったのかもしれない。
はっと飛び起きたら、まわりは随分と明るくなっていて、枕近くの目覚まし時計は何故か全部解除されていた。
ああ、やっちまった。
今日は久々のオフだからと言って、誘ったのは他でもなく自分で。きっとあいつ怒ってるだろうな、と冷や汗をかいた。と、そこで何かがおかしいことに気付いた。なんとなく、いつもとモノが置かれてる場所が違う気がする。あの本も確か本棚にちゃんと直していたはずだし、帽子も床の上に落ちているし、その床には見覚えのないカゴも置かれている。それに何より聞こえるはずのない寝息が聞こえてくる。はっとして、後ろの重みに振り返れば、そこには俺のタオルケットにくるまった梓月がいた。


「え、なんだこれ」


なんで梓月がここに。どうして梓月が俺のベッドで寝てるんだ。
なんで、どうして、という疑問がぐるぐるとまわっていくうちに、再びふとカゴに目が留まった。起こさないようにそっと、ベッドから抜け出して、カゴの前にしゃがみこむ。覗き込んだカゴの中には、弁当箱が入っていた。
もしや。
ジローから聞いた話を思い出して、なんだかたまらなく愛おしくなって、顔がにやけるのがおさえきれなくなった。
朝弱いのに。弁当なんて作ってくる柄じゃねえってのに。
俺との約束をこんなにも楽しみにしてくれていたなんて。
だというのに家に来てみれば、未だ寝ている俺を見て、きっとこいつはテニスって気分でもなくなったんだろうな。絆創膏がいくつもはってある指を、ゆっくりなぞる。


「これじゃどっちみち、テニスなんてさせらんねぇじゃねぇか」


俺はベッドに戻ると、幸せそうに眠る梓月を引き寄せて、目を閉じた。
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