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髪を切った。
なんだか急に、昨日の自分とお別れしたくなったのだ。秋の肌寒い風が、あらわになった首元をそっと撫ぜていく。
「梓月……お前」
その髪はどうしたんだ、とまで言えないくらいに驚いた表情をした跡部に、私は笑った。私の元へと近づいて、するりと綺麗な指が私の髪をなぞる。少し名残惜しそうに、毛先を弄んだあと、跡部は目を閉じた。
「髪は女の命と聞いたことがある」
『まぁ、そうかな』
「……」
女を捨てた、とまではいかないけれど、それと似たようなものなのかもしれない。私は、昨日までの自分とおさらばしたのだから。昨日までの、あの人の女としての自分と。
『今日からはまた、新しい自分として生きるの』
「……お前の答えはそれでいいのか」
『自分で決めたことだもの』
遠慮がちに頬に触れた指は、そのまま私の唇へとむかっていく。私がその手に自分の手を添えると、跡部は私の目を見て、そして、軽く口づけた。
「もったいないことをしたな」
『しょうがないのよ』
だって、あなたの女として生きることを選んだ私の、けじめなのだから。