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ねぇ、君は今、笑っているの?それとも泣いているの?
きっと、女の子に生まれてきた罰なんだよ。と彼女は言った。長い髪も高い声も。丸みを帯びてきた体も、ふくらむ胸も、初潮も。
跡部が何も言わずに貸し出してくれたシャワールームにとじ込もって、念入りに、肌をかきむしるように洗っているのが、扉ごしでもわかってしまう。水音にまじる嗚咽に、何もできない自分を呪うことしかできなかった。
なんで私は女の子なんだろうね。
シャワールームから出てきたてんは、ただタオルを巻いただけの姿で、慌ててジャージを渡した。彼女は、はぎのすけでもこういうのには慣れてないんだ、なんて言って笑った。慣れているわけがない。だって、ずっと……。
邪魔な横髪を耳にかけ、目のやりどころに困ったあげく、そっと目を閉じた。てんの体のあちこちにある鬱血痕、青々としたあざが痛々しい。
はぎのすけはいいな。
誰かに必要とされていて羨ましい。てんはそう言って笑う。まるで自分は必要とされていないとでも言うように。そんなわけがないのに。今だって、いや、ずっと前から、出会った頃から必要としている人間はいるのに。
てんの髪から滴る水は、彼女のあたたかい心をも冷たくしていくようで、思わず抱き締めた。少し驚いたように、てんは短く息を吐く。そのてんの吐く息すら冷たく感じて、そのまま、口づけた。身も心もあたたまるように。俺という存在が、てんを必要としている証拠と共に。
怖かった。
震えた小さな声で一言、てんのありのままの言葉が、その唇から紡がれた時、ようやく、てんの本当の姿が見えた気がした。