▼ ▼ ▼

私の話聞いてくださる?

ある映画を見たくなった私はわざわざ電車を乗り継いで、映画館に一人でやってきたんですよ。(寂しいやつだなとか思う人もいるかもしんないけど、なかなか快適なんだぞってことを付け加えといておこう。)
いつものように機械に手を触れて、いつものようにチケットを購入。すんなりと終えてしまった私は待合所でゆっくりしていたわけだが、そこでやっと気づいた。隣の椅子にクラス一の毒舌無感情な財前光が座っていることに。
私の視線に気づいたのかなんなのか知らないけれど、私の方をちらりと見た財前は相変わらずの無表情で、売店の方に向かっていく。そんなに私の存在が邪魔か。ええ、それはそれは大変失礼いたしました。なんて一人ごちて、店員さんのアナウンスでシアタールームへと移動する。
一番最初に劇場に入るのが私の密かな楽しみなのだけれど、今日は違った。いつの間にか財前が一番乗りに入って、既に座っていたからだ。場所的に見下ろされている風になってしまい、またお前かなんて言わんばかりの笑いにイライラした。なんやねんこいつ。人の楽しみとっておいてからに。
思わず睨み返そうと思ったけれど、好きな映画の前にこんな負の感情を募らせていては楽しめやしない。そう思って、私は手元のチケットを見て自分の席を探す。G-19、ど真ん中。いい席とれたなんてうかれてたのもつかのま、座った席はあの財前の隣だった。しかも私より真ん中の席。こいつだったのか。とろうと思った席とったのお前だったのか財前光。
最悪だ。もう何もかも最悪だ。
知り合いではあるけれど好きでもなんでもない男の隣に座って好きな映画を見なければならないのか。モチベーションの下がりようはんぱない。
そうこうしている間に他の観客が入って来て、劇場の照明が消える。これでもう隣は気にならない。項垂れていた体を起こし、目を閉じたまま背中を背もたれに沈める。心を落ち着かせてゆっくりと目を開けると、ちょうど広告が終わったところで、いよいよ始まる、と目を輝かせた時だった。なんと、目の前でカップルがいちゃつき始めたのだ。この私の、目の前で。ただでさえ、頭が椅子に隠れないのに、堂々といちゃつくカップルに私の沸点はもう限界だ。隣の男の存在だけで苛立ちがおさまらないのに、これはどういうことだ。あまりの限界突破に、私はこのカップルにがつんと言ってやろうと、立ち上がろうとした時だった。


「立つと後ろの人が見えんくなるで」


私の腕を引いたのは財前で、そのまま前のめりになった財前がカップルに何かを囁いた。途端にカップルは、あわただしく、だが静かに席を立って劇場から出て行った。
何が起きたのかさっぱり。
呆然としていると、口の中に何かを放り込まれて、それを咀嚼するとバターの味がふんわりとひろがる。


『財前!』
「映画館内では静かにお願いしますわ」
『あんた一体』
「梓月のせいで映画わけわからんくなったわ」
『それはこっちのセリフだし』
「これ18:00からもやるらしいで」
『え?』
「このままおってもしゃーないし、抜ける?」
『……うん』


というわけで、静かに劇場を抜け出した私たちは18:00からの映画まで、楽しく楽しく遊びました、とさ。って、あれ?何の話だったっけ?
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -