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年に二度、テスト開けに催されるサークルの飲み会は、案の定大盛況となり、二次会、三次会、四次会まで行こうとしているところで、私は酔いによる眠気を理由に、一人、盛り上がる居酒屋をあとにした。
ふらりふらり。
あまりおぼつかない足を引きずって、数メートル歩いたところで、ぼんやりとした視界に見覚えのある車がうつった。
あれは確か……。
にんまりとする顔を必死に抑えて、携帯からとある電話番号を見つけ出す。電話を切ると同時にその場から消えた車に、私はやはり頬が緩んだ。


『ユウジさん』


助手席のドアを開けて一番に見えたのは、不機嫌そうな顔をしたユウジさんだった。


「お前、ええ加減にせえよ」


唇をとがらせ気味に、いらいらしていますと言わんばかりの口調で、ユウジさんは私を睨んだ。何が?なんてとぼけながら、私は車に乗り込む。


「人をタクシー代わりに使うな言うとんねん」
『タクシー代わりになんてしてませんよ』


ユウジさん好みの洋楽が流れて、私はそれにハミングしながら、シートベルトをしめる。と、同時に車を走らせ始めたユウジさんは、やはりあまり機嫌がよろしくなかった。


『ユウジさん、今日も残業だったんですか?』
「ま、まぁな!」
『お疲れ様』
「お、おう、ありがとさん……ってちゃうやろ!」
『え?』
「そうやって思ってるんやったらな!わざわざ俺呼ぶなっちゅーねん!ていうか、こない遅うまで何しとってん!」
『あれ?言ってなかったですっけ?今日飲み会って』
「言っとったけど!」
『言ってたんじゃん』
「こない遅なるなんて言うてへんかったやろ!」


と言うと同時に、はっとした顔をしたユウジさんは、やってしもたと言わんばかりに唇を噛む。私とユウジさんの間にしばらくの沈黙が落ち、私はいよいよにやけ顔を隠すことができなくなってしまった。
ははーあ。やっぱりそうだったんだ。


『……心配、してくれてたんですか?』
「あ、あほ!んなわけあるか!」
『ユウジさん、電話して5分もしないうちに来ましたよね?』
「そ、それは、たまたま近くおったからで」
『ていうか、私、ユウジさんの車見ましたもん』
「そそそそそんなん!俺の車とは限らんし!お前の見間違いちゃうん!?」
『私がユウジさんの車を見間違えると思います?』
「……」


飲み会に行くとは言ったものの、きっとあまりにも遅いから心配してくれたんだろうな。気まずげに、言葉を飲み込むユウジさんは、なんだかとてもかわいい。荒々しく髪の毛をかいて、ユウジさんは大きいため息を吐いた。


「ああああもうほんまお前とおると調子狂う」
『嬉しいです』
「変人か」
『またお迎え来てくださいね』
「小春以外にしたるかあほ!」


とか言いつつ、また電話したら迎えに来てくれるに違いない。ユウジさんは優しい人だから。私に浴びせる悪態は、ただの照れ隠しだろうし、きっと愛情の裏返しなんだろうと思うと、私はやはり頬が緩みっぱなしなのである。
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