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あかん。ほんまにあかん。
なんやねんこの暑さ。おかしいやろ。そりゃもちろんいつものように走り回ってはいたし、それによる風は大変心地よいものだったが、この暑さは異常だった。太陽による熱で焼け焦げてしまいそうや。


『謙也そろそろ薄焼きせんべいにでもなるんじゃね』


そう言って笑った梓月だが、全然笑えへん冗談やし、梓月自身も目が笑ってへんかった。


「なぁ、なんでこんな暑いん」
『知らん。私が聞きたい』
「やっぱ梓月も知らんかったか」
『その、やっぱ、って何。バカにしてんのか』
「ソンナコトナイヨー」
『しね』


暑さでおかしくなってしまったのか、いつも以上に梓月の口調は辛辣で、目も座っとる。テスト期間で、いつもよりはよ帰れるのは嬉しいけど、その分この暑い中必死こいて帰らなければならないわけやし、俺と一緒に走って来たこいつはもう、屍寸前だろう。ていうか、ようついて来れたな。
さっきから首を振り続けている扇風機を強にして、その前を陣取れば、思いっきり頭をはたかれた。こいつ、加減っちゅーんを知らんな。蹲ってる間に扇風機は梓月のもんになっとった。


「お前これ、俺の扇風機やぞ」
『違いますー忍足家の扇風機ですー』
「でも、これは俺の部屋専用や!」
『おばさん、謙也が勝手に持ってったって言っとったもん』
「おかん余計なことを……!」
『ほーらね!やっぱり謙也のちゃうやん』


勝ち誇ったような笑みを浮かべ、梓月は扇風機を抱きかかえた。
あっぶな!いくら涼しいからいうて、それは危ないやろ!
梓月の首根っこを掴んでずるずると引きずれば、案外簡単に離すことができた。きっと、暑さで力入らんのやな。


『もー何すんの。暑い』
「えー加減俺にも当たらせろや」
『やだよ』
「じゃないとお前にひっついたるで」
『うわ、本気でやだ』
「泣くで!」
『汗だらっだらの謙也に涙分の水なんてあるか』
「もったいないしな!……ってそういうことちゃうやろ!」
『うっせえ黙れ』


お前が撒いた種っちゅー話や、なんていうツッコミも最早扇風機に吹き飛ばされていて、梓月の耳には届かないらしい。制服のまま寝そべった梓月を横に、行き場を失った目線がふらふらと彷徨う。それに気づいた梓月はにやり、と笑った。
こいつわざとやな。


「もう許さん」
『わっ』


梓月の上に覆いかぶさってやれば、汗がするりと頬をすべった。少しだけ驚いているような、でも、やっぱりしたり顔していて、まんまとこいつのじゅっちゅーにはまったってのもなんや癪やけど、まぁええか。
さっきのくだりはなんだったのか、扇風機はむなしく首を振り続けていた。
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