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『りんご飴食べたい』
部誌につっぷして、今ふと頭の中に浮かんだ願望をそのまま口に出せば、うんざりと言わんばかりのため息を吐かれた。
「今日、祭りやろ?行けばええんとちゃいますか」
顔の下の部誌を引っ張り出した財前は、書きかけの部誌を完成させるべく、私から奪い取ったシャーペンですらすらと書き始める。
あ、意外ときれいな字。
「先輩よりうまいやろ」
うっざ。どうせへっぽこ丸文字ですよーだ。
私と違って達筆な文字が隙間を埋めていく。……いっそそうやって私との距離も埋まって行けばいいのに。学年も違うし、性別も違うし、財前は部員だけど私は部員じゃなくてマネージャーだし。
『りんご飴買ってよ』
ましてや彼氏彼女なんて関係でもない。
「なんで先輩に買わなならんねん」
そりゃごもっとも。
なんだか少し泣きたくなって、寝ぼけたふりして目をこすった。開けはなされた窓から、湿っぽい匂いがなだれ込んでくる。雨が降るのかもしれない。いっそ雨が降って祭りなんて中止になればいい。どうせ、一人で祭りに行っても意味はないのだから。
「でも、まぁ、先輩が俺と付き合うてくれるんなら別にええっすけど」
……雨なんて降らなければいい。