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これはどういうことだろう。
昨夜宅飲みで謙也の家に久しぶりに四天テニス部のメンツがそろったのも覚えている。久しぶりのテンションに、久しぶりの爆笑に、久しぶりの勢いでガンガン飛ばして飲んでいたのも覚えている。酔いに酔いつぶれた私を白石が介抱してくれていたのも、謙也が笑いながらベッドを貸してくれたのも、なんとなくだけど覚えている。
だけれど、この状況は全くもって身に覚えがない。
着ていたゆるゆるのニットは遠くに放り出され、シャツ一枚だけ身にまとった私は、そのシャツさえも胸下あたりまでめくりあがり、その腰には鍛え上げられた腕が絡まっている。
どういうことだ。
顔だけを動かして周りを見ると、缶や瓶で散らかった部屋のあちらこちらで眠っている姿が見える。机にうつ伏せになっている謙也と財前、ちゃっかりソファに白石、床に金ちゃん、一氏、小春ちゃん。小石川と師範は既に帰ってしまったのか姿が見えない。
じゃあ、この腕は。
首をふんばって後ろに向ければ、そこにはあの千歳の顔があった。
どういうことだこれは。
首元に、耳元に、息がかかってくすぐったい。腕をどかそうとするけれども、びくともしない。それどころかますますきつく抱きしめられて、足も絡めとられる。さらに腰にあった手はするすると上へとのぼっていく。
うそだうそだ。逃げられない。
おしりにかたいものがあたって、思わず悲鳴を上げそうになったが、それはできなかった。大きな手が私の口元を抑えたからだ。


「たっちゃった」


たっちゃった……じゃねえよ!こいつ起きてたのかよ!最悪!最悪!


「てんがこげん積極的とは思わんかったばい」
『ばか!ふざけんなよ千歳!』
「服まで脱いで誘ってきたんはどっちね」
『私知らないし!酔ってたし!』


誘ったとか知らないし。誘ってたとしてもそんなの酔ってる私に言ってよ。千歳が吐く息はほんのりとお酒くさくて、こいつもざるのくせに珍しく酔ったのかもしれないなんて冷静に考えた。いや、わりといつもこんな感じでセクハラまがいのことはしてくるけど。


「てんの匂いったい」


うなじに顔を埋められて、何度も口づけられる。そりゃ私から私の匂いがするのは当たり前だろうが。


「久々に会えてうれしすぎて俺ん息子も元気」
『それ以上言うと殴るよ』
「ぎゅってしたらてん殴れんよ?」
『ぎゅってすんな』
「やだ。する」


なんだこの駄々っ子は。図体だけはでかくても相変わらず中身は20になった今も子どもだ。ぽにょぽにょお腹〜とか言ってお腹の肉をつまんできたこの男の手を軽く叩く。それでも、笑い声だとか、喋り方だとか、私を気づかうような優しさが含まれていて、やっぱりこいつも成長してんだなぁと思う。体を千歳の方に向けて、この男の顔をまじまじと眺める。


「なん?急に俺ん顔ば見て」
『別に』
「惚れた?」
『ばぁか』


嬉しそうに笑った千歳に、こんな柔らかい表情もできるようになったんだ、なんて地味に感動する。転校してきた当時はあんなにぎらぎらとした目でこの世界を見ていたというのに。それがなんだかおかしくて私は千歳の胸に顔を埋めて笑った。そして、何故か安心してしまった私は千歳に触れるだけのキスをして、再び眠りに落ちた。



(これは生殺し!?っていうか、どういうことはこっちのセリフばい!?)
(いや俺らのセリフやで!?)
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