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ああ、あついあつい。
全身の水分が煮えたぎってしまいそうだ。ぷつりぷつりと額にあらわれる汗を手の甲でぬぐう。
『ねえ、丸井聞いてる?』
聞いてる聞いてる。すいかが何だっけ?あ、アイスだったっけか。とりあえず今は冷たいもの、なんでもいい、とにかく冷たいものを体が欲している。それが甘ければ尚更いい。
『丸井?丸井!?』
あーうるせえなぁ。頭がガンガンする。だんだん意識が遠いところにいきはじめて、俺はここで改めて炎天下の下に投げ出された体を思った。
そうか、俺は倒れたのか。
目の前に広がるのはぼやけた青空で、入道雲がおいしそうに浮かんでいる。
あーソフトクリーム食いてえ。
『丸井』
はっと目覚めた時には、青い空も白い雲もなくて、ただ清潔そうなカーテンや壁が見えるだけだった。少しだけ開いたカーテンの隙間から、誰か覗きこんできたと思えば、それは梓月だった。
『気付いた?』
「俺……」
『ねっちゅうしょうだって』
そう言って梓月はスポーツドリンクを渡してきた。少しぬるくて甘ったるいけど、じんわりと体にしみわたっている気がする。
「……ねっちゅうしょ」
ぼんやりと呟けば、梓月はこくりと頷いた。
じゃあ、いいのか。
『えっ、んっ』
まわりきらない頭の中、梓月の襟を掴んで引き寄せると、そのまま自分の唇に梓月の唇を押し当てた。驚きに満ちた顔が、自分にも伝染してしまいそうになるけれど、まるで味わうように目をつむる。少しずれた唇に歯が当たって、鉄の味が口の中にやんわり広がる。
甘いのかもしれない。でも決して冷たくはなかった。なのに、もっと欲しいと思ってしまった。
ふつりふつり。また全身の水分が沸騰しはじめる。