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「おい、まだか」


部屋の外から聞こえた声に肩がはねる。やだもう来ちゃったの。私は慌てて帯をしめるがうまくいかない。ちょっと待って、という声も急いてうまく言えず、裾に足をひっかけてこけたところを、待ちくたびれてドアを開けた跡部くんにばっちりと見られてしまった。


「ったく、着れないなら着れないと言え」
『ごめんなさい……』
「怒ってるわけじゃない」


苦笑しながら、跡部くんは近くに落ちていた帯を拾って、倒れている私を引き起こしてくれた。そのまま大きな鏡の前に連れてこられた私は、跡部くんと向き合う。何をするんだろう、と首をかしげていれば、跡部くんは浴衣の襟元を直し始めた。驚いて、まじまじと跡部くんの顔を見つめれば、少しドヤ顔でそんなに見つめるとキスしちまうぞと言われた。丁重にお断りした。


『跡部くんって着付けもできるんだね』
「意外か?」
『うん、てっきりお手伝いさんにさせるのかと思ってたから』
「ばーか」


なんでバカ!?そう思いながらも、口には出さずに、跡部くんの手つきを眺める。器用だなぁ。私にはできそうにもないや。帯をするするとまいていく跡部くんは見事なもので、感心してしまった。財閥の息子となるとこういうことも教養の一つとして習わなきゃいけないのかもしれない。ふうん、大変だなぁ、跡部くんも。ほう、と息を吐けば、跡部くんの動きがぴたりと止まった。どうしたんだろう。そう思って顔を上げれば、ぱくりと唇を奪われた。
えっえっえっ。


「辞めた」
『何を!?』
「やっぱり我慢ならねぇ」
『えっ』


綺麗にまかれていた帯は再びほどかれて彼の手によって放り投げられる。ああ、あんなに遠くに。花火が打ちあがるまでの時間もそんなにないのに。頭がこんがらがって、ぱくぱくと開く金魚みたいな口に、再び跡部くんの唇がおりる。


「花火なんて後でいくらでも見せてやる」
『え、でも、みんな待ってるんじゃ』
「お前の浴衣姿なんか、他のやつらに見せてやるかよ」


なんだそれ。結局肌蹴ちゃってるから浴衣姿とはいえないし。玄関の外で待っているであろうみんなに心の中で謝りながら、私と跡部くんはベッドに沈んだ。
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