▼ ▼ ▼

柳くんの口にぎっとぎとの油がついていた。
それは柳くんのせいではなく、他でもない私のせいであった。責めるような視線(?)を一身に受けて、たらりと流れる汗。私の手から箸が落ちそうになるのを、柳くんはさりげなく阻止した。


「行儀が悪いな」
『ごめんなさい』
「何故このようなことをしたのか納得できるように説明してもらおうか」
『や、柳くんにもこのおいしい天ぷら食べてもらいたいと思って』
「ほう?」
『ごめんなさい』


柳くんは口を拭うでもなく、そのままの状態で私を見つめ続けた。目線をそらそうとしても、それができないくらいに彼の纏う雰囲気は恐ろしいものだった。
元来薄味を好む柳くんを誘って、何故揚げ物屋に来たのかは私にもわからなくて、いつの間にかこの隅っこの座席に向かい合って座っていたのだ。柳くんはやっぱり揚げ物の少ないさっぱりとした料理を頼んでいて、私はおすすめされていた揚げ物のセットを頼んだわけなのだが。お前が食べたいのなら、と文句も言わずゆっくりと箸をつける柳くんに、少しだけ不満を抱いたのは確かだった。
嫌いなら嫌いって言えばよかったのに、いやだって言えばよかったのに。


「どうしてそんなに謝る」
『だって』
「別にどうってことはない」
『柳くん油っこいの嫌いでしょう』
「別に食べれないわけではない」


ほらまたこうやって。叱るでもなく、私のこと甘やかして。怒ってもいいのに、柳くんは何も言わない。彼の本当の気持ちがわからないから、私はいつもこうやって柳くんの嫌なことをしてしまう。このままじゃ柳くんのこと傷つけてばっかりになってしまうのに。
ぎとぎとになった柳くんの唇を拭おうと手を伸ばす。私がやったことだもの。私が拭わなきゃ。そう思った手は彼に引かれていて、いつのまにか彼の唇と私の唇は合わさっていた。離れ際にぺろりと舐められて、私は彼に支えられながらぺたりと座り込んだ。


『な、何、えっ』
「拭ってくれるのだろう?」
『そ、そうなんだけど、でも』
「俺は、梓月が幸せならそれでいい」


彼は変わらない微笑みを携えて、それでも、お前が考えていることは全部わかっているというような満足気な顔をしながら、私の頬をすっと撫でた。


「俺は梓月を所有したいという我儘をずっとお前につきつけているからな」


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -