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ぱくり。もぐもぐ。ごくん。
今の今まで咀嚼していたのはなんだったのか。私にはもうわからなかった。
目の前に広がる料理をただひたすらに食べ続ける。おいしいとかまずいとかそんなことを考えることもなく、食べ続ける。そんな私の向かい側には、にこにこと笑う現在彼氏という名の肩書があるちょうたろうが座っていた。ちょうたろうは料理に口付けることもなく、私の顔をじっと見ていて、なんだこれが食べたいのかなんて言いながら口元に料理を近づけても笑顔で顔を横にふるのだった。
呼び出したのはそっちなのに。
口を開いたかと思えば料理の注文で、次々と運ばれてくる料理に私は顔を顰めるが、手は止まらなかった。
もぐもぐ。ぱくり。ごくん。ごくん。
何度口に運んだんだろう。何度咀嚼したんだろう。何度飲み込んだんだろう。もう分からなくて、お腹はいっぱいなはずなのに手だけは止まらない。止まらない。


「止まらないのは君の手じゃなくて、君の涙だね」


どうして泣くの。てんちゃんは嬉しくなかったのかな。変な冗談と思われたのかな。一応俺、心決めて言ったんだけどなぁ。


『違うの、嬉しくないわけない、そんなことありえない』


ただ、いきなりすぎて驚いただけなの。
何度も何度もちょうたろうの言葉を咀嚼して飲み下したはずなのに、全然頭に入ってきてくれなくて、いっぱいいっぱいで。


「じゃあ、てんちゃんの頭に俺の言葉が届くまで、何度も何度も言うよ」


ちょうたろうはフォークを握っていた私の手をとった。その拍子に私の手からフォークは滑り落ちる。


「俺と結婚してください」


ごっくん。
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