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『ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・あいたっ』
「そんなお決まりなんは飽きたわ」


スニーカーを脱ぎ捨て(それでもきっとちゃんと揃えている)足音をわざと立てながら帰ってきたユウジは、私のとびっきりの笑顔を見てハリセンではたき倒すほどのひどい男だった。
彼がこの部屋に住みつき始めて何年たっただろうか。
きっかけはデザイナー修行のための上京で、中学生の時から腐れ縁だった私にいきなり電話をかけてきて、部屋に転がり込んで来たユウジだったが、それから長い間こいつとの同棲?シェア?生活をしている羽目になっている。しかし、修行と言いつつユウジは昔から才能あったし、今はれっきとしたプロだ。給料も人並み以上貰っているというのに、彼は未だに出ていく素振りさえ見せない。


『なぁ、ユウジ』
「おん」
『今まで黙ってたけど』
「おん」
『あんたいつこの部屋出てくの?』


ただの腐れ縁の男を、しかもしっかりとお金を持っているであろう男をこの家に置いておく義務はない。金が無いという理由でこの部屋で一緒に暮らしていたわけだし。二人だとこの部屋も狭く感じてきたところだったし、引っ越しも考えるようになったし。そろそろ出て行ったらどう?
冷蔵庫を物色して隠していたチューハイを見つけたユウジは私が座っているソファに同じように腰をかけて、何言ってるんだこいつという目で見てきた。


「あ?なんで出ていかなあかんねん。今更やんけ」
『そうだけど、ユウジだって狭いって感じるでしょ?』
「せやけどなぁ、そんな狭い狭い言うんやったらもうちょい広い部屋二人でかりればええやんか」
『なんで二人?ユウジもうお金困ってないじゃん』
「は?」
『は?』


ユウジが言わんとするところがわからない。なんで二人で借りるとかそういう話になっちゃうんだ。二人顔見合わせて、難しい顔で首を傾げあう。こんなに会話がずれる原因はなんなんだ。


「おま……てん、これ、今までのなんやったと思っとるん」
『は?何が』
「せやから!俺がお前ん家におることやっちゅうねん!」
『だから、上京してお金がなくて、たまたま東京住んでて連絡とれたのが私だったからでしょう?』
「それもあるけど!」
『それ以外に何があんのよ』
「……ああ、あかん。これはダメや。何も通じとらんかった」


いきなり顔を覆って、泣く真似を始めたユウジは、恨みがましく私を見上げた。


「……そもそもてんがこんな鈍感なヤツやと気づいていながら、曖昧にしてきたからいかんかったんやな、せやな、俺が悪いわ、すまんな、てん」
『何一人で落胆して一人で後悔して一人で謝ってんのよ……』
「あんな、よーく聞けや」
『う、うん?』
「俺が金無いん言うたんは、お前を養う金が無い言うたんや」
『……は?』


真剣な表情をしたユウジは、机の上に置いていた私の両手を握った。少しだけ熱っぽい、大きな手は私の手をすっぽりと収めてしまう。


「せやから、一人前になって、お金もぎょーさんもろて、お前を養えるようになるまでの間、俺はてんを俺に惚れさせなあかんかった」
『は』
「だって、勝機のないプロポーズなんてカッコ悪いだけやん。せやったら、一人前になるまでの間の期間つこうてお前惚れさせたろ思って、お前ん家に来たんや。てんと一緒に暮らす準備もできるし、それにお前が浮気せんようしっかりみはっとれるしな。どや、一石二鳥やろ?」
『え……は……そんなん』
「ここの家賃こっそり俺が払ろうてるし、てっきり感づかれとるんちゃうか思ってたけど、そう思った俺の負けやわ……。しかしまぁお前に色気の無いこと無いこと。完璧に気ぃぬいとるし油断しきっとるし、理性保ちまくりでちょっと心配になったわ」
『い、意味わからん……なんでそんなことしてたん……』
「ああもう、せやから、」


一人混乱する私の前で小さく息を吐いたユウジは、私の頬を挟んで自分の方へと引き込んだ。私は自然と前のめりになって、下から見上げるユウジとばちりと目があって、ユウジは私を一睨みして、口の端をあげた。


「お前んこと愛しとるからやろ。言わせんな阿呆」
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