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「えっ、ちょっ待ちいや」


ひきつった顔に冷たい汗がつたっていて、それすらも扇情の材料になっていることを彼は知らないのだろうか。頬に添えた手を軽く何度か滑らせると、彼は少しだけ身を固くした。


「あ、あんな梓月、これはどういう状況で」
『白石は黙っとき』


白石の唇にそっと人差し指をあてる。戸惑った表情がまた、珍しく、なんだかおもしろくなって、唇を何度もなぞった。ああ、いいなぁ、その顔。もっとして欲しいなぁ。


「梓月……せ、せや、話合お?な、そうしよ?」
『うーん……白石には体で感じて欲しいからなぁ』


白石をさらに壁に追い詰めて、彼の胸にそっと耳をあてる。鼓動は早くなる一方で、つられて私の鼓動も早くなりそうだった。


『ねぇ、白石?私あなたに謝らなくてはならないことがあるの』
「えっ、な、何」
『この前白石の誕生日だったにも関わらずなーんにもできなくてごめんね?』
「そ、そんなん、ええって!だから、はよ、どき」
『そうはいかないんだよね』


だって、ね?せっかくだし。甘い香りが私たちを包んで、はやくはやく、と私を誘っているようだ。


『それじゃあ、白石、召し上がれ』
「ちょ、まっ、梓月!梓月っ」


いいなぁ、その顔。私の目の前には生クリームでべとべとになった白石の顔があった。ああ、本当にこれだけのためにケーキ作ってきてよかった。聞えよがしにため息を吐いた白石は、そのまま唇をぺろりと舐めた。


「梓月……なんか言うことは?」
『誕生日、おめでと』

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