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『よっ!甲斐』


よっじゃねーらん。
ここ最近姿を見せなかったのは梓月のくせだのに。
返事もせず、振り返りもせず、そのままフェンスに頬杖ついていたら、背中をはたかれた。


『無視しないでよ』


ようやくそこで振り返れば、今にも泣き出しそうな 梓月がいた。
近づかないで、と言ったのは誰だばぁよ。なんて言いたくなった。

そもそものきっかけは、一ヶ月前に言った一言だったはずだ。


「真剣好き」


本当に何気ない一言だった。髪の毛を耳にかける仕草を見て、ついついぽろりとこぼした一言だった。寧ろ声に出しているとも思っていなかった。はっと気づいたときにはもう遅くて、隣でさんぴん茶を飲んでいた 梓月は、その手に持っていたペットボトルを取り落とし、すごい顔(表現できないくらい)でわんを見ていた。
ああ、しまった。と思うものの、別に隠すべきことでもない、その一言に腹をくくり、わんはもう一度、好き、と言ったのだ。
それからだ。梓月がわんを避けるようになったのは。
運良く話せる機会があっても、梓月はわんの顔も見ないし、そそくさと逃げていく。
いい加減こっちもモヤモヤしてきて、わんの何が悪かったのかも分かんないし、避けられる理由も分からねーらん。もう、わんも、知らん。そもそもあんなの告白にカウントしないし……二回言ったけど。

だのに。
この状況はどういうことやし。


「……近づくなって言ったのは梓月やし」
『そんなの』
「何よ」
『本気にしないでよ』


ぬーがやくぬひゃー、勝手か。
そんな言葉もお腹の中に戻っていくほどに、梓月は泣きそうな顔でわんを見つめてくる。
いつもより大きく感じる瞳の中にいくつもの涙の粒が浮かんで、今にもあふれ出てきそうだ。
恐る恐る梓月の肩に、行き所のなかった両手を肩に置けば思いっきり払われた。
あーもう、なんでよ。


『私のことが真剣好きなら』
「はぁ?」
『私のことが真剣好きなら!私が恥ずかしがりだっての気付けっての!』
「は、はあああ?あぎじゃびよ……ぬーやがうり……」


じゃあ、今までのあの態度は、全部恥ずかしがってやってたって言うば?
避けてたのも、逃げてたのも、近づくなって言ってたのも。ぜーんぶ。


「それ、確かかぁ?」
『嘘なんてつかないし』


あーでーじ脱力。


「わん、真剣傷ついた」
『だ、だから謝ろうと!』
「でも、それ以上に、でーじ嬉しい」


へらり、と笑うと、梓月は反対に眉を顰めた。でもその顔は全部まっかっか。
わん、まだ返事もらってないばぁよ。


「二回、返事くれるあんに?」


そう言うと、平手打ちされそうになったから、その手を掴んでひっぱって、唇奪ってやった。
これくらい許されるはずよ。
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